saison de karo 42

ゆきずりに聖樹の星を裏返す  三好潤子

星3


「地下鉄の三越前でまってるわ。5時よ。だいじょぶ?」
「ああ。」
「ホントよ。」
「わかった。」
僕は外へ出た。真冬にしては暖かい陽気だった。多摩川園の駅前まできて、僕は自分の脚が、機械のように動いているのに気がついた。ラジオが「ジングルベル」をやっている。それに脚をあわせていた。きょうはクリスマスなのである。
ジングルベル、ジングルベル・・・。
歩調を合わせまいとしてもダメだ。

クリスマスツリー

電車は満員だった。田園調布、自由ケ丘、と人は増すばかりだ。僕は運転台の片隅に圧されて、息苦しくなった。
背筋がつめたくなってくる。またきやがった。
僕はここしばらく続いている微熱のことを考える。
去年の冬、卒業論文を書いているとき、前に一度やったことのある肋膜炎をぶりかえしたのだが、この頃また夕方になると7度2,3分の熱がでる。・・・・
「ダメよ。そんなことすれば、あなたは死んじゃうじゃないの。」
悦子はそう言って、軽い接吻しかさせなくなった。
そのくせ彼女は僕と街へでると、きっとたくさん買物をして、それを僕に持たせるのだ。コンビネーション、毛糸、クルミ割り機械、毛髪のクリップ、アイスクリームの道具一式・・・。

クリスマス 毛糸2



クルミ割人形


都電は何台待っても、日本橋止りのものしか来なかった。
ジングルベル、ジングルベル・・・。
突然、あの歌が聞えてきた。

翌日、朝から雨だった。
「あたし、7時過ぎまで待っててあげたのよ。そしたら、電車が故障だって言うから、もう来ないと思って、・・・脱線しちゃったわ、あれから。」
「脱線?」
「つまらないから煙草ばかり吸ってたの。もう来ないと思って帰りかけたら、後から男の人が追いかけて来たの。・・・あなたの待っている方もおいでにならなかったんですか。じつは私も・・・。」
言われるままにその男にくっついて、
「お酒、ずいぶん、飲んじゃったわ。何もわかんなくなって、お家へ帰ったらもう12時よ。」
「いけないね。そんなことしては。」
「でも、あなたが悪いのよ。そうでしょう。あなた、これから家へいらっしゃらない。だあれもいないの、いま、アイスクリーム作ったわ。」
「だめなんだ。これから用事があるんだ。」
「そうオ、じゃあ、晩は。晩ならいいでしょう。アイスクリーム、冷蔵庫に入れとくわね。」
ボックスを出ると僕は急に不愉快になってきた。


アイスクリーム


何がアイスクリームだ。僕はアイスクリームを悦子の頭に叩きつけてやることを想像しながら、これからすぐに彼女の家へ行ってやろうと、目黒駅へ歩きはじめた。・・・すると、僕は耳を疑った。またしても「ジングルベル」が鳴っているのだ。何ということだ、これは。クリスマスなら、昨日でもう終っているではないか。
ジングルベルジングルベルジングルベル・・・・・。
「セイント・ニコラスのおじさんよ。あなたにはかないません。どうせ僕は橇に縛りつけられたトナカイです。もう、けっして勝手にはブラブラ致しません。・・・どうか、お願いです。ほんのしばらく休ませてください。」

             安岡章太郎  『ジングルベル』

クリスマスおめでとう


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