saison de karo 22

疑ひは人間にあり雪の闇 平井照敏

山と霧


「おれはよほど馬鹿に出来ているんだ。君の言うように相手は人の細君だ。何も他人の細君とごちゃごちゃするてはないんだ。世の中には女は幾らでもある。掃いて捨てるほどある。もっと若くて、もっときれいな、独身の女がいっぱいいる。
・・それでいて、気持ちが一人にひっかかっていやあがる。・・・
君はだれか女と一緒に山へ登る自分を想像したことはないか。ないことはあるまい。必ず一度ぐらいあると思うんだ。・・・山へ登るやつがそうした空想をする時、そこへ現われてくる女はその山登りにとって普通の関係じゃないと思うな。・・・・山で考える女は本当の意味で自分にとってはただひとりの女ではないのかな。」
「そうかも知れない。」
「じゃ、おれの気持ちがわかるだろう。なるほどひとの細君だ。どうすることもできない女だ。だが、おれにとっては恐らくこの世でたったひとりの女なんだ。いつかはあの雪のついた大岩壁を仰がせてみたいと思っていた女だ。」
「岩壁って?」
「東壁だ。」
「そりゃあ、無理だ。」
「・・・夢だよ。夢ならいいだろう。夢なら、それを持っていてもいいだろう。」

                        井上靖 『氷壁』

前穂東壁

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