カロ歳時記
saison de karo 140
初夏のこれが最後の煙草かな 芳野ヒロユキ

禁煙なんて簡単なことだ。 私はもう何千回も禁煙している。
マーク・トウェイン

マーク・トウェイン

マーク・トウェイン 『ハックルベリー・フィンの冒険』
ハックルベリー・フィンはトウェインの永遠の少年キャラクター。

少年期は永劫に続くべきものであり、また、現に続いてゐるのではないだらうか。
三島由紀夫 『煙草』

私は学校を囲む起伏の多い森の中を散歩するのを好んでゐた。
ふと、木の間に熊笹のすれあふ音がした。

小さな草地に寝転がつてゐた学生が身を起こしてこちらを見た。
彼等ふたりは私の知らない上級生だつた。
彼等は明らかに、禁ぜられている煙草を先生から隠れて喫むためにそこにいるのであつた。
一人はじろりと私を見ると、
手に隠していた煙草をすぐ口にもつていつた。
・・・・ 不意に目をあげて、
「君!」と云つた。
私は伏目になり、行き過ぎれば良いものを、そこに兎のやうに立ち竦んでいたのだ。
「一寸、ここへ来いよ」 「エ?] 「まあ、座れ」 「はい」

彼は新しい煙草を咥へてそれへ火をつけた。
「いいから吸つてみろよ」 「だつて」 「吸はないと火が消えてしまふ」
私はそれを吸つた。

沼の匂ひに似たそれと香しい火の匂ひが混ざり合ひ、
一瞬、大きな燃えてゐる熱帯樹の幻を見た。
私ははげしくせき込んだ。
上級生は笑つた。 私は決まり悪さうに笑つて仰向けに寝ころんだ。
初めて喫んだ煙草を高く掲げて、目は半ば閉ぢ、
私は午後のくすんだ空の青へ煙が流れてゆくのを見飽かなかつた。

ルドン 『アポロンの馬車』
麻酔にかけられた時間を破つて、
やさしい熱い声を私は耳元に聞いた。
「君名前は何て云ふの」
煙草をくれた人がさう言つてゐる。
それは、いつからともなく私が待ちこがれてゐた声ではなかつたか・・・。
『煙草』


三島由紀夫 『十代書簡集』 表紙写真

指定エリアを守った喫煙は、個人の自由です・・・。
でも、みなさん、煙草は控えめに・・ネ。
カロ

晩年のトウェイン 喫煙中

芳野ヒロユキ句集 『ペンギンと桜』
ネクタイは五月の薔薇をいそいそと
カタバミを愛し始めているのかも
ヒロユキ

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