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今月の猫 五月祭猫と話して暮れにけり 望月和子
今月の猫 Chat du mois
5月のねこ Chat mai
五月祭猫と話して暮れにけり 望月和子

侍従の大納言の姫君が、
たった十五歳という若さで亡くなってしまわれました。
美しい書をお手本に頂いたこともあった方・・・。


姫君のことがしきりに思い出されてさみしくてなりません。
そんな五月のある夜のこと。

源氏物語絵巻
夜ふくるまで物語を読みておきゐたれば、
来つらむかたも見えぬに、猫のいとなごうないたるを、
おどろきて見れば、いみじうおかしげなる猫あり。
『更級日記』

眠られぬままに、物語など読み、夜更かしをしていると、
どこかで猫の鳴き声が・・・いつまでも鳴いています。
見ると可愛い猫。

姉さまが、誰にも内緒で飼いましょう、とおっしゃいます。

菊池契月
もとの飼い主が探しているかもしれないけれど、私たち姉妹の傍をはなれようとしないので、
可愛くて、誰にも内緒で飼っておりました。


寝覚物語絵巻
姉さまのお加減がわるくなってしまった時、仕方なく北側の部屋に猫を置いて、
こちらへ呼んでやることができませんでした。

高橋弘明 ねこ
猫は悲しそうに鳴いています。
ふと、眼を覚まされた姉さまは、こんなことをおっしゃいました。
今、夢のなかにあの猫が出てきてね。

わたくしは、侍従の大納言の姫がこうなったものです。
わたくしがこの世で書いた歌の書を、
あなたはたいそう愛して持っていてくださいましたね。
いつも思い出してくださるあなたのところへ、猫の姿でまいりましたけれど、
このところは、北向きのお部屋で、下々の者に混じって、
辛い思いでおります・・・。

そう言って、ひどく泣かれたと思ったら、あの猫の声でした。
すぐに猫をこちらへ呼んで、 撫でてやりながら、
侍従大納言の姫君が、こうしていらっしゃいますのね。 と、話しかけると、
こちらをじっと見て、やさしい声で鳴きました。
わたくしの言葉が解るようでした。
管原孝標女 『更級日記』

治安二年、1022年、五月。 約千年前の日本の少女と猫です。


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