歳時記 

                saison de karo 114


                          春愁の通り過ぎゆく青電車    山川和子
                                                  
                    
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                                      赤坂見附

                                    
            
             ぼくが赤坂見附から銀座に出ようと地下鉄丸ノ内線に乗った時のことだ。
             
             ちょうど、午後三時過ぎの空いている時間だったが、

             ぼくが何の気なしに腰かけた席のに、

             ひとりのが座っていた。


                                                 庄司薫 『頭巾ちゃん気をつけて』
                                   
                              
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             はすごくきれいな仕立てののチェックのスーツを着て、

             うす茶のブーツをはいて、同じ色の小さなハンドバッグを膝の上において

                  (ぼくはすごくよく覚えているんだ。)

             要するにとてもおしゃれなきれいな女性だったのだけれど、

             どうしたことだ、いっぱいにを流して泣いていたんだ。


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             それもハンカチーフや手でを押さえてとかいうのでなくて、

             を向いて、手はバッグをかかえたまま、

             とにかくまわりのことなんて全く目に入らないように、

             あとからあとからあふれ出るで顔中をぐしゃぐしゃに濡らして泣いていたんだ。


                                                スーツブルー                      

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                    これにはぼくはもうすっかり驚いてしまって、

                      まさにと口をあけてながめてしまった。

                        もちろんぼくだって、人間が時にすごくくものだということは知っている。

                    それに、

                      こんなことを言うこと自体がまた本当に残念だけれど、

                      ぼくだってくことがあるし、

                    時にはごくごくくだらないテレビドラマなんかでも、

                 つぼにくると、ホロホロいちゃったりすることがある。
  
             でも、まあ、ごく一般的に言って、

                     やっぱり、くっていうのは、特にそれが人前では、

                           相当に時と場合を選ぶべきものなんじゃないだろうか・・・。


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                     ところが、その女性は、人前も何もあらばこそ、

                     堂々というかなんていうか、

                         まったくひとりぼっちで、

                         まったく自分だけのにいるように、

                             ほんとうにもうひたすらを流して静かにしんしんと泣いていたんだ。
                   

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                   電車は国会議事堂前、霞ヶ関と進んで、

                    その度に新しく乗りこんだ乗客が、彼女を見て驚いてしまうのだが、

                      彼女は全然かまわずにき続ける。



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             そして、要するにぼくは、

                (ガールフレンドの由美と映画を見に行くので

                 のウエストで待ち合わせていたのだけれど)

             どうにもりられなくなってしまって、とうとう本郷三丁目まで乗り越してしまった。


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             そして、ここで逆に、はそれ以上見ていられなくなって、

             あわてて降りてしまったというわけだ。

             何故かといって、(すごく生意気みたいだけれど)

             一人のが目の前でこんなにも悲しそうにいていて、

             それなのに、そのになにもしてやれないというようなことがはっきり分ったら、

             これはほんとうにどうすればいいのだろう。


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             もちろん、どうしました?なんて、そばに行っていけないことはないけれど、

             彼女のき方には、そんな「釣れますか?」などと声をかけるようなことが、

             全く無責任だと思わせるようなそんな何かがあったんだ。

             彼女に声をかけるとしたら、彼女がそれこそき止むだけでなく、

             彼女がすっかりせになり、

             毎日底抜けに明るい笑い声をたてるまでにしてやると力がなくてはいけないんだ。


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                   ぼくは、なんていうのだろう。

                     そんな自分の力のなさのようなものにいたたまれないような

                  わけの分らないしさでいっぱいになって、

                     とにかく飛び降りて、

                  それから反対側のプラットフォームに行く階段を上りながら、

             、猛然と断固として一つのをしたのだ。


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             まあ、笑われるとは思うけれど、

             要するにぼくは女性をかせたりはしないぞ、というものだった。

             ほんとうに断固としてしたんだ。

             女性をかすなんて絶対にしてはいけない。女の子を泣かしたりしては、

             にいけない。ほんとうに、ほんとうにいけない。

                                           『赤頭巾ちゃん気をつけて』   
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                               ホットケーキ


                                     
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