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今月の猫 猫すてるべき朧月待ちにけり 保坂敏子
Chat du mois 今月の猫
Chat avril 四月のねこ
猫すてるべき朧月待ちにけり 保坂敏子



向こうに大きな池がある。
・・・池の前に坐ってどうしたらよかろうと考えてみた。


誰も来ない。そのうち池の上をさらさらと風が渡って暮れかかる。


腹が非常に減ってきた。
泣きたくても声がでない。

何でもよいから食い物のある所まで歩こうと決心をして、
そろりそろりと池を左に廻り始めた。


竹垣の崩れた穴から、ある邸内にもぐりこんだ。
とにかく明るくてあたたかそうな方へ方へと歩いてゆく。


第一に逢ったのがおさんである。
・・・いきなり首筋をつかんで表へ抛りだされた。

しかし、ひもじいのと寒いのにはどうしても我慢ができん。
再び台所へ這い上がった。
すると間もなくまた投げ出された。

投げ出されては這い上がり、這い上がっては投げ出され、
何でも同じことを四、五遍繰り返したのを記憶している。


最後につまみ出されようとしたときに、
この家の主人が騒々しい何だと言いながら出て来た。

おさんは吾輩をぶら下げて主人の方へ向けて、
この宿なしの子猫がいくら出してもお台所へ上がってきて困りますと言う。

主人は鼻の下の黒い毛をねじりながら吾輩の顔をしばらく眺めておったが、
やがて、そんなら家へ置いてやれといったまま奥へ入ってしまった。
主人はあまり口をきかぬ人と見た。
夏目漱石 『吾輩は猫である』

捨てる神あれば拾う神ありニャン ねこ

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