カロ歳時記

            saison de karo111


                        手袋の片方海を呼んでいる 城貴代美


                                 てぶくろ3


                                 手袋1



                              てぶくろ1
                                                                                                  

                    二十二歳のときだったと思います。

                       私はひと冬をなしで過ごしたことがあります。

                          勤めて間もなく、月給は高いとは言えませんでしたが、

                             身のまわりをととのえるくらいのことはできた筈です。

                       でも、をしなかったのは、気に入ったのが見つからなかったからでした。

                                                          向田邦子  『をさがす』


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                                                                   手袋4
                                            
                                       手袋5



                    戦争が終わってすぐの、駅も乗物もひどい寒さでした。

                           みな分厚いオーヴァーを着こみ、をはめていました。

                                  一体どんなが欲しかったのか、思いだせません。

                      とにかく、気に入らないものをはめるくらいなら、

                  はめないほうが気持ちが良い、と考えていたようです。
  

                               手袋7


               何時の間にか、わたしが何時を買うのか、まわりの人が気にするようになりました。


               そんなある日、

               わたしに目をかけてくれた人が、残業にことよせて、忠告してくれたのです。


                                           手袋1


               五目そばをふたつとりよせ、のたつおそばをすすりこみながら、

               こう言いました。

               君のいまやっていることは、だけの問題ではないかも知れないよ・・・・・。

               としました。


                                           手袋6



               わたしは昔からぜいたくで虚栄心が強い子供でした。

               ほどほどでするのではなく、もっとせば、もっと良いものが手に入るのではないか、

               きょろきょろしているところがありました。


                                      手袋3



             わたしはく健康でした。 親兄弟にも恵まれ、暮らしにも事欠いたことはありませんでした。

                 つきあっていた男友達もありました。

                       あのまま結婚していれば、いわゆる世間なみのせを手に入れていたかも知れません。

                    にもかかわらず、わたしはしくありませんでした。


                                             手袋10



                 わたしはをしたいのか。それさえもはっきりしないままに、

                           ただ漠然と、このままではだめだ、のままではいやだ、と、

                                     手のとどかない現実に腹をたてていたのです。


                                         手袋8


              たしかに、だけのことではありませんでした。  


                                                 手袋001
                                                  

                         ・・・・・わたしは四谷の通りを歩いていました。


                                          手袋9



              の匂いにまじってちゃんの泣き声、ラジオの音。

              十人並みの容貌と才能なら、上を見るかわりに下と前を見て歩けば、

                   きっとほどほどのせは来る・・・。


                                      手袋0


              、わたしは、このままで行こう、とめたのです。


                  そのから、新聞の求人広告に目をこらしました。

                       そして、「編集部員求ム」の広告に応募してしました。

                            ぜいたく好きと叱られて、ほどほどのものでするのもやめました。


                                  手袋2


              三か月分のをたった一枚の水着・・・・

              アメリカの雑誌で見た競泳用エラスチック製の水着に替えたのもこの頃です。

              そして・・・・。

              か不幸か、えようがありません。

              今の自分にもがあります。年と共にずるくなってゆく自分。

              地道な努力もなく、貧しい才能へのひけ目。


                                          てぶくろ4



              でも、たったひとつ、わたしの財産といえば、いまだに

              「を探している」ということです。


                                              手袋2


                                           
              どんなが欲しいのか、それはわたしにもわかりません。

              なにしろ、いまだにこれ一冊あればに行ってもあきない、といえるにもめぐりあわず、

              他のレコードは要らず、という音も知らず・・・に暮らすもなく・・・。
                                                            手袋01



              ないものねだりしているのでしょう。

              でもこの頃、

              まだ合うがなく、うろうろして、少しばかりケンカごしで、しい物を探して歩く・・・。

              そんなき方を少しりに思ってもいるのです。

                                                 向田邦子   『をさがす』

                                                            手袋02

                                                    
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