カロ歳時記 

        saison de karo102



                           無欲なるとき靜かなり白日傘 小笠原照美 

                                                                   日傘1
                                           

                    
                        

                        人気のない乾いた道に午後のが真上から照りつけていた。

                        周子はを持ってでなかったことを悔いながらハンカチで顔の汗をふいた。

                        がなかった。

                        周子は、川向うの道を灰色のをさして歩いている老婦人をみた。

                        川辺家の未亡人だった。

                        瀟洒なのワンピースを着ていハイヒールをはいていた。

                                                         立原正秋 『の午後』


                日傘13




                                            日傘 12

                          

                        夫人は右手にの滴る風呂敷包みをさげていた。

                        包みが角ばっているのでだろうと思った。

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                        あそこのを買いにでるなんて、どうしたのだろう。

                        周子は数年前に一年間だけ夫人から語を習った。


                                        日傘10


                        「、ご機嫌よう。」

                           「ああ、周子さん、どこのおり?」

                               「歯医者さんに行ってきましたの。」

                                  「お若いのに歯がね・・・。」

                                       「それお持ちしましょう。」

                        
                                                 老婦人は包みを周子に渡した。


                                           夏草3



                        「ずいぶんおいしませんでしたわね、まだ習いに来る方、大勢いらっしゃるんでしょう?」

                           「去年からおりしています。もう、の変化をすっかりれてしまいましてね。」

                        やがて、坂道の門の前まできた。

                           「あたし、ここでしますわ。」



                                          夏草2ミラー




                        「まあ、あがってひとやすみしていらっしゃい。

                           やしてありますよ。」

                        老婦人は玄関を上がり、ハイヒールを脱ぐと、食堂に入っていった。

                           周子は台所にまわり、包みを乾いたタイル張りの流しに置くと、冷蔵庫をさがした。

                        「冷蔵庫はこっちですからわたしがいれますよ。

                           ここへきておかけなさい。」

                        食堂に入るとそこはしていた。


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                         周子は食堂のにかかっているをみあげた。

                         底のふかい皿に盛ったをかいた油絵で、部屋の暗がりの中で絵も沈んでいた。

                         老婦人がをいれたコップを盆にのせて入ってきた。


                                        日傘8


                         「さ、召し上がれ。」

                         たい液体がのどを伝ってはいった。

                         「おいしいわ。」

                         「おかわりをしなさい。そうそう、昨日焼いたお菓子があったわね。」


                               日傘9




                              日傘5


                         
                         老婦人はふたたび椅子を立つと、い陶器皿にケーキを盛ってはいってきた。

                         牛乳をたっぷり使ったケーキは、周子の口のなかでとけた。

                         
                              日傘11


                       日傘6


                   フランス語を習いに通ったとき、邸にはふたりのがいた。  

                      周子はふたりのその後のを聞こうとして、やめた。

                        そして、を二杯飲み、ケーキをふたつ食べてから、別れをつげた。

                            老婦人は勝手口まで送ってくれた。   


                                                  日傘 デュラン




                               周子はをでて坂道を歩きながら、

                            あるいは二人のは結婚したのだろうと考えた。

                          坂を下りると、ふたたびが照りつけた。


                            「あら、周子さん。」

                          と呼ばれて周子は顔をあげた。

                   の水玉模様を散らしたワンピースを着て、

                      を持った道子が立っていた。


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                      「ずいぶん長い歯医者ね。待っていても帰りそうもないから、
                             
                      いましてきたところよ。小母さま心配してらしたわ。」    

                      「あら、すみません。帰りに川辺のにお会いして、

                      そこでをごちそうになってきたの。」



                              夏草1




                      「川辺のって、あの語を教えていらしたお方?」

                      道子はを周子の上にさしながら訊いた。

                      「そうよ。」

                      「、なにかいじゃないの?」

                      「なにが。」

                      「だって、あら、このひと、きっとどうかしているわ。

                      あのお亡くなりになったのよ。

                      あそこのおは、いま売りに出ているのよ。

                      あら、いやだ、この人、顔がいわ。」

                                                      立原正秋 『の午後』  


                                       日傘2
                                                      
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