カロ歳時記

  saison de karo87



                ユダよりもさびしき一人クリスマス 行方克巳


   クリスマスケーキ10

                                   
                                                                                                           

        を食べなくなって、もう何年になるだろう。




                        クリスマスケーキ3



        私はさなを抱えて、渋谷駅から井の頭線に乗っていた。

        当時、私は日本橋の出版社に勤めていた。

        会社はれかけていたし、一身上にもの晴れないことがあった。

        家の中にもさなごたごたがあり、

        夜道を帰ると我が家の門だけが暗く、くすんで見えた。

        私は玄関の前で呼吸をととのえ、きな声で、

        「只今!」と威勢よく格子戸を開けたりしていた。




                                                 向田邦子 『父の詫び状』




                   クリスマスケーキ9




              それにしても、私のケーキさかった。

              夜十時をまわった車内はけっこう混み合っており、ケーキの包みを持った人も多かったが、


              私のは一番さいように思えた。



        父はなどに気の廻るタチではなく、

        いつの間にか、それは長女である私の役目になっていた。




                     クリスマスケーキ1




               甘党の母や弟妹達の頭数を考えると、やはりさすぎた。

               せめてもの慰めは、銀座の一流の店の包みだということである。

               来年はもっときいのにしよう、と思いながら、私は眠ってしまった。





                     クリスマス6



               そのころ、私は乗り物に乗ると、必ずをしていた。

               内職でラジオの台本を書き始めていたので寝不足だった。


               終点に近いせいか、車中はガランとして、

               2、3人の酔っ払いが寝込んでいるだけだった。





                      クリスマスケーキ6




        私は、我がを疑った。


             私の席の前の網棚の上に、きなの箱が乗っていた




                      クリスマスケーキ7





             私の膝の箱の倍はある。しかも、同じ店の包み紙なのである。            

             下の座席には誰もいない。明らかに置き忘れである。


                                      クリスマスオーナメント


             こんなことがあるのだろうか。

             誰も見ていない。

             取り替えようと思った。        
        
             だが、それは一瞬のことで、


        



                      クリスマスケーキ8



                      
               電車はホームに滑り込み、私は自分の小さなを持ってホームに降りた。


               発車の笛が鳴って、
        

               きなを乗せた黒い電車は、四角い光の箱になって、

               カーブを描いて三鷹台の方へ遠ざかってゆく。

  
               サンタクロースだか、キリスト様だか知らないが、 

               神様も味なことをなさる。





                      クリスマスケーキ2





        仕事も、恋も、家庭も、どれをとっても八方ふさがりのオールドミスの、
        
        さなを憐れんで、ちょっとした余興をしてみせてくださったのかも知れない。


        私は、笑いながら、「リーと言ってみた

        不意が溢れた。

                                     『父の詫び状』




                       クリスマスケーキ5

        

                
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