今月の猫 chat du mois

11月の猫  chat novembre


                      白猫の通りぬけする庭紅葉      川崎展宏


              もみじ1




             大浦は自分の部屋にいた。  細君が、

            「小沢さんです。」 

            というと、仕事はそのままにして、すぐ庭に出て行った。

             小沢は山紅葉の下に立って、枝を見上げていた。

            「いい色に紅葉を。」

           と小沢は言った。


                                                                 庄野潤三 『夕べの雲』





                       もみじ5



       
             この人の言葉文字に写すのはむつかしい。

            決してひと息に全部言ってしまわないで、何度も立ち止まる。

            そこへ 「あー」でもないし、「えー」でもないが、

            字に書くとすればそう書くよりほかない言葉がはさまる。

            「いい色に紅葉を・・・」と言ったあとは、おそらく「していますね。」という風に

            続くところであるが、あとの方は、ためらっているように見える「あ行」の声と共に

            行方がわからなくなってしまう。





        もみじ6




            「やっぱり、雑木の紅葉とちがって、いい色に。なかなか、これだけの、色は、

             雑木じゃあ、出ない、もんですね。」
   
            「そうですね。」と、大浦は言った。





                     もみじ2





            小沢の話し方は、彼の人間と切り離すことのできないものであった。

            こんなしゃべり方をまだるっこいと感じる人は、

            小沢という植木屋とはつきあいきれないということになる。


            大浦はどちらかというと、せっかちな人間であったが、

            小沢と話をしている間は、自分がせっかちであるということを暫く棚上げにした。


           


        もみじ7




           こちらが欲しがっているでも、小沢は、

           「それはいい、それにしなさい。」

           とは、言わなかった。

           そう言ってくれれば助かるのだが、決してそう言わないのだった。



        もみじ3



         大浦は言った。

         「夏蜜柑はどうですか。」

         「夏蜜柑、欲しいですね。」

         細君が言った。





                もみじ01





         「ああ、あれは、この辺では、どうですか。

          冬蜜柑は、寒がりますから、無理ですが、
        
          夏蜜柑の方も、やっぱり、

          無理、なようですね。うちでも、前に、鉢に植えたのが、一本あったんですが、

          二年位は、まあ、育っていましたが、そのうちが咲かなくなって、

          どうも、これが、到底、駄目になっちまって、抜いてしまいました。

          あれは、育てるのになかなか辛抱のいるで、

          一人前になるのは、五十年と言います。」


         「それなら、」と、大浦は言った。

         「一人前になった頃には、こっちがもういなくなってる。」


         みんな、一緒に笑った。

                                            『夕べの雲』




               もみじ8

                  
             この文章読んでまだるっこいと思う人はせっかちニャ





                    もみじ4




    
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