saison de karo 79

愛されずして沖遠く泳ぐなり 藤田湘子



プール


 

その男とは大学のプールで知り合った

つくると同じように、彼は早くそこに一人で泳ぎにやってきた

彼は多崎つくるより二学年下で、物理学科に属していた





                  泳ぐ1



「土木工学科でいったいどんなことをやっているんですか?」と相手の学生はつくるに尋ねた

を作るんだよ」

「エキ?」

「鉄道の駅だよ。液体の液じゃなくて」





                                     泳ぐ





「どうしてまた鉄道の駅なんですか?」

「だっての中には駅が必要だよ」とつくるは当たり前に言った

「・・・しかし、うーん、駅を作ることにそれほど情熱を燃やしている人が世の中にちゃんといるなんて、想像したこともなかったなあ」



「世の中には弦楽四重奏曲を作る人間もいれば、レタストマトを作る人間もいる・・・駅を作る人間だって何人かは必要なんだよ・・・
それに僕の場合、それを作ることに情熱を燃やしているというほどのことでもない・・・ただ限定された対象に興味を持っているというだけだよ」

「失礼なことを言うようですが、限定して興味を持てる対象がこの人生でひとつでも見つかれば、それはもう立派な達成じゃないですか・・・・・つくるさんは何かをつくるのが好きなんですね  名前どおりに」




                     泳ぐ2







同じ時刻に待ち合わせ一緒に泳いだ



              

              プール2
       





人は日々移動を続け、日々その立つ位置を変えている   次にどんなことが持ち上がるか、それはにもわからない

つくるはそんなことを考えるともなく考えながら、二十五メートルプールを息の切れないペースで往復した    顔を軽く片側にあげて息を短く吸い、水中でゆっくり吐いた



                   村上春樹 『を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』


             泳ぐ3



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