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   歳時記
           saison de karo 1

                                  毛皮脱ぎ置きて吾を見る   波多野爽波

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                    は車掌の後から車両へ入って行ったが、車室の入り口で、

               中から出てきた一人のに道をゆずるため、立ち止まった。

        彼は会釈してから車室へ入ろうとしたが、何とかもう一度、この貴婦人を振り返って見たいという思いにかられた。

                彼が振り返った時、彼女もまた顔をへ向けた。

                      いまつげのために黒ずんで見える、そのきらきらしたのまなざしは、

            じっと彼の顔を見つめたが、すぐまた、誰かを探しているように、通り過ぎて行く群衆の方へ転じた。
                  
                                                          トルストイ 『アンナ・カレーニナ』 

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                             何度も映画化された『アンナ・カレーニナ』 こちらはヴィヴィアン・リー

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                     のベストセラー『アンナ・カレーニナ』の序章、アンナとヴロンスキーが出会う場面です。

                    時の大臣の妻であるアンナは、偶然出会った軍人ヴロンスキーと運命的な恋にちます。

             、離婚に同意しない夫、息子への愛着、新たに生まれてきた娘の先行き。

                               困難と不幸がにアンナを襲って・・・。

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                                    著て人には見えぬ   堀恭子
                               毛皮をまとうのは、が欲しいから。
                                            そして、何かをしたいから・・・?

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                                  の恋愛がクローズアップされてはいますが、

                         多彩な登場人物が、それぞれひたむきに生きる姿を描いて、 

              『カレ』は、大きな反響を呼びました。      

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                                クラムスコイ 月あかりの夜 もの思いにふける女性

                 イワン・もまた同時期の美術界をリードした画家のひとり。

                    絵画とはの人々の心を表現するべきものであるという画家の信念は、

                       精緻に描かれた人物のに現われています。 

                    揺れ動く、社会に、身分に、思想に、そして恋に翻弄される帝政末期の人々。


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                                                               クラムスコイ 忘れえぬ人

                       なかでも、よく知られているのが 「ロシアのモナリザ」と称されるこの絵「」。

           『アンナ・カレーニナ』初版の10年ほど後、小説にい影響を受けて描かれました。

    模様のペテルスブルグの街を行く馬車に端然と座る貴婦人。 憂いを秘めつつも強い光を帯びた。 

                      彼女は、絵の前に立つあらゆる人をかに見下ろしています。

           日本でも人気の高いこの作品はモスクワからたびたび来日。 この、10年ぶりに公開されました。

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                                        ロマンチック・ロシア展。  また会えました。

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                                                              会場は渋谷 Bunkamura               
                45チスチャーコフ
                  チスチャーコフ 少女 琥珀のネックレスが透きとおっていました。

                          『忘れえぬ人』と共にやってきたの作品です。

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                                          ヴェレシャーギン アラタウ山にて  ロシアの人々が待ちわびる春

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                                                      印象派を思わせる風景 バクシェーエフ 樹氷

                       恋人もも抱いてさぶりぬ  対馬康子
                                   ヴロンスキーもさぶられ。

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                アンナとヴロンスキー  なんと彼はアンナのために自殺未遂までしちゃうのです

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                                                                Bunkamuraの花屋さん
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                                                       フロアの壁には何人もの『忘れえぬ人』が。
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                 1930年代の「アンナ・カレーニナ」、アンナ役はグレタ・ガルボ 意志が強そう

             
                   あたくしは、いなくなるんですわ。でも、あたくし、とってもうれしいんです。

                     いなくなったら、あなたもあたしくもわれるのですもの。

                                                             『アンナ・カレーニナ』

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                海外に居を移していたアンナとヴロンスキーはロシアにってきますが、

                       血縁も社交界も彼等を受け入れてはくれません。 ふたりの間にもが吹きます。

                     ヴロンスキーと出会った時と同じの駅、彼女は走ってくる機関車に身を・・・。

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                             モネ 機関車風景 今回の出品作ではありませんが、ピッタリなので。 カロ


              、あたしはへいったらいいんだろう。

        アンナはプラットフォームを先へ先へと進みながら考えた。 そのはずれまで来て、アンナは立ち止まった。

                  不意に、彼女はヴロンスキーと出会った日のことを思い出した。

                                                               『アンナ・カレーニナ』

                   青い雪

             終着駅のに顔切らる  遠山陽子
                       月の光はいほど。

                                        汽車の音のく聞ゆる   正岡子規
                                          ここに置くと、子規の句もロシアので詠まれたよう。


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                               愛に正直であったアンナの悲劇的な人生はここでわりますが、

                  登場人物たちは、それぞれ国や家族のためにきる道を模索しました。

                       小説は、アンナもそのであったことを強く示唆して幕をおろします。
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                                               マカロフ 婦人像

                          汽車と女ゆきてはじまりぬ   西東三鬼 
                                         劇的な一句。 三鬼はをどう思っていたでしょう。
                                     きっとお気に入りだったのでは?
                       
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              かなしきはギヤマンのの毛皮の   三橋鷹女
                        鷹女が詠えば、毛皮もしみも絢爛。

                                  毛皮脱ぎ置きて吾を見る   波多野爽波
                                     
                               わたしもまっすぐにを見たい。  カロ

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            の一冊
                livre de karo

                                仏に剥落のつづきをり  細見綾子 『伎藝天』 

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                                                   角谷昌子さんの新著と美しい面立ちの浄瑠璃寺吉祥天女像。                                                                     
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 秋篠寺の伎芸天。 綾子が詠んだのはこちらの由。 胸衣のあたり、剥落の中にかすかな紅が見えますね。


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           『』は、綾子が「日本の言葉との新しい出会い」を求めて授かった、言葉の花束のような句集である。

                     ・・・綾子の場合、無常観に心を縛られるのではなく、 

と思われる対象にも、「不限定」かつ「有限」の美を見出し、心の平安を得たのではなかろうか。

          ・・・身体感覚で感動を描く独自の詩心のである。

                                      角谷昌子  『俳句の水脈を求めて  平成に逝った俳人たち』

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               本稿執筆により、影向や回向、すなわちを慰め、しかも自分を鼓舞するという俳句の力が、

                            平成を通しても見えてきた気がする。

                                 角谷昌子   まえがき ― 俳句の力

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            30年という平成の、たくさんの俳人が逝去しましたが、            

             さんの 『を求めて 平成に逝った俳人たち』は、

                         まさに終ろうとしている時代をわたしたちに明示してくれるです。

                  い言葉の海から探し出された表現者たちのプロフィル。

        彼女の筆致は。  俯瞰的ながしっかりと守られ、文章にはゆるみがありません。


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                       や冬日の水脈を織り  古沢太穂
             闘士としての揺るがぬ厳しい姿勢ばかりでなく、人間としてのしさ、
                         詩人としてのかな感受性を味わうことができる。  角谷昌子

                             きねばや鳥とてを払ひ立つ  村越化石
                         雪を払いのける鳥の生命力にまされる。  昌子


                    思想に生きた、病に立ち向かった

             昌子さんのまなざしは、苦難多い人生を生きた俳人にも注がれます。

          び出された人たちは、彼女に、としての自分自身の言葉を訴えかける存在であったのでしょう。


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                          青天のはじめは光りなり  細見綾子


        純真芳醇な句作で知られると、後に夫となる沢木欣一とのいは次のように記されます。

                        第二次大戦中、綾子は長い闘病後、欣一はまだ学生でした。 

                                 IMG_0340(2)_convert_20160922204031.jpg                                   

         学生たちは近いうちに戦地へ赴かねばならず、それまでいかにきればよいかを話し合っていた。 

                綾子は慰める言葉をもたず、散りゆく紅葉を見つめながら、

       「いかに美しくするか。そのことだけではありませんの」と言った。

                この言葉は欣一に衝撃を与え、心からずっと離れなかったようだ。

                                          角谷昌子   「細見綾子  天然自然の柔軟性」  『同書』


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                                                       マリア像も剥落・・。

            は、綾子の代表作、

                              のつづきをり
 
            剥落という言葉につながってゆきます。  消耗も剥落も、マイナーに受け取られがちな言葉ですけれど、

                  女性の表現は、滅びの行程にさえ、を生み出すことができるのですね。   

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               に人を好きになれるのは、もう女だけなんですから。  

                                ・・・だね。
                       
                  そうですわ。 女はこともなげに明るく答えて、しかし島村を見つめていた。

                                                            川端康成  『

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           雪の温泉宿に長逗留する男島村と薄幸の芸者駒子。  川端康成の『』は、まことに古風なお話です。

      貧しい生まれ立ち、恩やしがらみにして生きる女性、駒子は、一見、耐えるばかりの弱い存在ですが、

              彼女の言葉には、ときおりの強さと矜持があふれ、読む者を魅了します。

                         ヒロインの生きる「」は、
 
                  綾子が「するだけ」と語ったことと重なって見えるようです。
                        
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          、昌子さんの筆は、綾子俳句のさらに深部に届きます。

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                                    離れもの  綾子

                      生命ののような鶏頭を〈三尺〉を保って見つめるうち、心の拠り所とするさを得た。

                  ・・・社会性俳句の雄であり、鋭い論客を夫に持ちながら、

         当時の風潮に染まらなかった綾子には、侵されない「」感がある。
                                                 
                                              角谷昌子   「細見綾子  天然自然の柔軟性」  

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                       冬薔薇く咲かんとみもつ  綾子

                                  れに向き重き辞書繰る言葉は  綾子
                      薔薇も辞書も、対象にせまりつつ、静かなを保ったことばで捉えられていますね。
                                                                                 
                                ひな6
                        
            さんが贈ってくれる言葉のは多彩です。

                         寒い冬をづけてくれる数句をご紹介して・・・。   

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                             雪の日暮れはも読む文のごとし  飯田龍太  
                     あのからの手紙でしょうか。
        

               勤めるはうに似る白息も  鈴木六林男   
                                 そのあとには、癒しとがありますように。 

                     浄瑠璃寺1    
                                浄瑠璃寺吉祥天女像

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                    を出て朝寒のこゑとなる  能村登四郎
                       きびしい生き方がこもる句ですが、可憐なのくちびるかも・・。
            
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                                      薬師寺に伝わる吉祥天画像。 麻布に描かれた天平時代のくちびるが今も美しく。

          仏に剥落のつづきをり  細見綾子

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                                   寒い日、どうぞあたたかく。  遠からじ・・・。   
                                                                       カロ   
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