歳時記

                saison de karo 


                   に紅葉あつめてらすところなし 中西ひろ美


                        もみじ1 


              土手を斜めに切った小径を降りて二人は池の端に立った。

                     ・・・はなんてところですか。

               ヶ窪さ。百姓はぶっきらぼうに答えた。

                        道子のは力を失った。 


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                                             那波多目功一
                                 

                        とは当て字らしかったが、

               ここは昔有名な鎌倉武士と傾城の伝説のあるところであり、

                        傾城は西国に戦いに行った男をってこのに身を投げている。

                                                    大岡昇平 『夫人』


                          鶴川一郎
                                             鶴田一郎


                           こそ、今まで彼女の避けていた言葉であった。

                    しかし勉と一緒に遡った一つの川のが、その名を持っていたことは、

                            道々彼女の感じた感情がそれであることを、

                    明らかに示しているように思われた。


                        柿の葉2 agemiya
                       agemiya    
                       

                 彼女はおびえたようにを見廻した。

                    別れる二つの線路の土手によって視野はわれていた。

                            彼女は自分がここに、つまりに捉えられたと思った。


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                           勉は歩き出した。

                   目の前には深いがあった。

                           紅葉したの間に梢の薄くなった欅が空を掃くように並び、

                   いっぱい実の熟れた柿の木に黄立葉ががっていた。

                           彼はもう道子のことを考えていなかった。のことを考えていた。

                   もっともそれはただ彼の道子への恋に対するとしての世間にすぎなかったが。


                                武蔵野1


                                            道子さんとに死んでしまおうか。

                                     ああまた自分勝手な悪い考えだ。

                              樹はみなしていた。                

                                                   大岡昇平 『夫人』
  
 
                                                                           

                                    もみじ4

       
               
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                        猫はヴィクトル・ユーゴ―高し  中村和弘

 
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                                                     simanekozukan                                                         

                    マダム・マグロワール、と司教は言った。

                         もう一人前、食事のをしてください。

                     司教はの方を向いた。

                         さあ、おかけなさい。からだをめてください。

                     しばらくしたら、夕食にしましょう。

                         あなたが夕食をとっているあいだに、ベッドのもできるでしょう。

                                                        ヴィクトル・ユーゴ― 『レ・ミゼラブル』


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                                       ロダン作 ヴィクトル・ユーゴ―の頭部



                      マダム、マグロワール、司教が言った。

                          その食器をできるだけのそばに置いてあげてください。

                      ここにあるはちっとも明るくないね。

                          マダム・マグロワールは寝室の暖炉の上にあるふたつのの燭台を取りに行って、
                      
                      それにをともして食卓に置いた。
                
                            
                                                 高島野十郎
                                                     高島野十郎

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                                        ojako                                                                    


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                          司教さま 銀食器のが空っぽです。
 
                      あのは逃げてしまいました。あの銀の食器が盗まれたんですよ。

                  ご主人さまは、これから何で食事なさいますか! 

                        マダム・マグロワール、司教は言った。 の食器はないのかね。
                            

                                       レミゼラブル4


                       錫はいがいたします。

                              それなら、の食器だ。
  
                                   鉄には妙ながございます。

           レミゼラブル1


                            じゃあ、の食器にしよう。司教が言った。   



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                                       レミゼラブル 木の皿
                                                                
               
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                               ノートルダムのてっぺん
 


                                   戸をする音がした。

                             おはいりなさい。司教が言った。

                           荒々しいが現われた。

                     ミリエル司教閣下、このが、こそこそ逃げ去るように歩いていたのです。

                 そこで取り調べのために逮捕しました。すると、このを所持していたものでして・・・。   



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                                         skinner   


                               やあ、でしたか。 司教は声をかけた。

                        私はあなたにもあげたのですよ。どうして食器と一緒に持っていかなかったのです。 

                さあ、つ前に、ここにあなたの燭台がありますよ。持って行きなさい。

                               してお行きなさい。                        
                                                    
                                                             『レ・ミゼラブル』


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                              ヴィクトル・ユーゴ―  
                                             ねこねこねこ
                                                                                     
 

          歳時記   
                    saison de karo 


                            ぬひあげてのかほるなり  杉田久女



                         菊 0



              三岡圭助がぬいと一緒になったのは、明治四十二年、彼が二十二歳、ぬい二十歳のであった。

              圭助は酒造を業とする旧家の三男に生まれたが、幼時、多少を好んだところから、

              父が美術学校に入れてくれた。

              もともと画家でをなそうという気持ちはなく、才能のないことは自分でよく承知していた。

              九州福岡の或る中学校の絵画の教師の口があると、彼はすぐに話に乗って九州にった。


                                                          松本清張 『枕』

                                       菊5


            彼は授業に熱心であった。

              しかし、これはぬいのに入るところでなかった。

                 ぬいは、圭助が展覧会の出品描こうとしないのを不満とした。

                      そのうち描く、と一寸逃れをしながら、圭助は海や川へ釣りに行ったり、

                             近所の碁打ちのところへ出かけたりした。
 
                                 さすがのぬいもめてしまった。


                                    菊2


              長女が生まれた。圭助は美人のを持った幸福な男と言う評をとった。

                         二年後には次女が生まれた。ぬいは忙しい母親となった。

              そのころ、彼等の間には小さながおこりがちであった。


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                                  ぬいが俳句にしたのは、国許にいる従姉のすすめに依った。

                         ぬいは俳誌『コスモス』に投句しはじめた。

               その主宰、宮萩栴堂が当代随一の俳匠であることは、俳句にのないものでも知っている。


                               菊 (2)


               ぬいの句は、栴堂門下の錚々の者とならんで巻頭にせまった。

                              この頃から栴堂がぬいのとなった。

               栴堂は客観写生をやかましく言ったから、ぬいが花鳥諷詠に心を引き入れられたのは当然である。

                              毎日、弁当持ちでを歩いた。


                    菊 松岡映丘 
                                                松岡映丘


                              であった。ぬいは布でつくった袋を持って頻りと出歩いた。

                帰って来ると、袋の中には、大小色々のの花が入っていた。

                            縁側にならべて陰干しにした。更に花をんできては干した。


                          菊 lattela
                                          lattela 


                                        何をするのだと圭助が訊くと、

                            先生に差し上げるです、と言った。

               これをするととても寿命がくなるんだそうです。

                           陶淵明の詩文のなかにあるそうです。

                                ぬいは菊枕をがかりで丁寧に作り上げた。

                               
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               ぬいは菊枕を持ってした。

                           ぬいは片瀬の栴堂を訪ね、菊枕を呈した。

                                 栴堂は期待したほど喜ばず、ただ簡略なだけ一言いった。

                                        ぬいには案外であった。

                                       
                                         11591869 (2)
                


                                        ぬいは殆どのように栴堂に手紙を書いた。

                             先生はお優しい反面、たい方です。私は淋しくてしかたがありません。

               栴堂からの返事はなかった。


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                                             ominoheso

              

                             ぬいは昭和十九年、圭助に連れられて或る病院へ入った。

                           はじめは、俳句をつくらねばならぬなどと口走り、頻りと退院をせがんだが、

                         その後は、終日、一人で口の中でなにかいていた。

                    ある日、圭助が面会に行くと喜び、

               あなたにを作っておきました、と言って、布の袋を差し出した。

          圭助が中をのぞくと、朝顔の花がんでいっぱい入っていた。


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                                圭助は涙がでた。

                       狂ってはじめて自分のにかえったのかと思った。

               ぬいは昭和二十一年に病院内で死んだ。

                        看護日誌を見ると、『独言独笑』の記入がある。

                                彼女をよろこばすどのようながあったのであろうか。

                                                                        『枕』               
                              
                                   菊4