歳時記
                       saison de karo 

                                                                   
 
                               変らざるもの何ならん薫る   小串輝子


                          逋ス闖奇シ点convert_20150909164806

                                                     
                           
             明治十九年十一月三日のであった。

                       当時十七歳だった ・・・家の令嬢明子は、父親と一緒に、鹿の階段を上っていった。 
                                      

            明るい瓦斯の光に照らされた、幅の広い階段の両側には、

                     大輪のの花が、三重の垣を作っていた。

                           菊は、うす、濃い色、一番前のが真っな花びらを流しているのであった。                      
                                
                階段の上の舞踏室からは、もう陽気な管弦楽の音が聞こえてきた。

                                明子が正式な舞踏会に臨むのは、がはじめてであった。

                                                               芥川龍之介  『舞踏会』


                                  白菊1
            

 
                 舞踏室の中にも、いたるところにの花が美しく咲き乱れていた。  

                       見知らぬ仏蘭西の海軍が、何処からか静かに歩み寄ってきた。

                                    そして丁寧に会釈をした。                         

                       「いっしょにってはくださいませんか。」・・・

                       明子は、その将校と、「美しく青きダニュウブ」のワルツを踊った。

                       の日に焼けた、眼鼻立ちのあざやかな、濃い口髭のある男であった。

                             明子は既に仏蘭西語とダンスの教育を受けていた。

                                                         


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                      「もっと続けて踊りましょうか?」

                            「ノン、メルシ。」 明子は息をはずませて答えた。

             仏蘭西の海軍将校は、明子と食卓のひとつへ行って、一緒にアイスクリームのをとった。

                        いビロウドの衣装を着けたドイツ人らしい若い女が傍を通った時、

                                   明子はこう云った。


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                                  「西の女の方はほんとうに御美しうございますこと。」

             海軍将校は、この言葉を聞くと、思いの外真面目に首を振った。


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                   「の女の方も美しいです。殊にあなたなぞは・・・。

                       その儘すぐにの舞踏会へも出られます。

                   そうしたら皆が驚くでしょう。 ワツトオのの中の御姫様のようですから。」


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                            明子は、ワツトオを知らなかった。・・・・・

                         「わたくしも巴里の舞踏会へ行ってみとうございますわ。」

                     「舞踏会はみんな同じです。巴里ももここも・・・。」

      
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                           その時、明子と海軍将校とは云い合わせたように話を止めて、
 
                              の針葉樹を圧している夜空の方へ眼をやった。

                           其処には、丁度の花火が、蜘蛛手に闇を引きながら、

                               将にえようとする所であった。
                     
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                    仏蘭西の将校は、明子にを貸した儘、庭園の上の星月夜へ黙然と眼を注いでいた。

                         「御国の事を思つていらっしやるのでしょう。」

                            すると海軍将校はあいかはらずを含んだ眼で、

                                 かに明子の方へ降り返った。

                                  そうして、のように首を振ってみせた。

                             「でも、何か考えていらっしゃるようでございますわ。」

                        「何だか当てて御覧なさい。」



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             「私はの事を考えていたのです。

                            我々のvieヴィのような花火の事を・・・。」


                         花火2



                           大正七年の秋であった。

                  明子は一面識のある小説家と、

                             偶然汽車の中で一緒になった。


                                     白菊9


                 青年はその時網棚の上に、知人へ贈るべき菊の花束を載せておいた。

                          すると、当年の明子、今のH夫人は、

                     の花を見る度に思い出す話があると云って、

                   詳しく彼に、鹿の舞踏会の思い出を話して聞かせた。              


                         話が終った時、青年は何気なく、夫人にこう質問した。

                              「はその仏蘭西の海軍将校のをご存知ではございませんか。」

                        夫人は思いがけないをした。

                           「存じておりますとも。Julian Viaud と仰る方でございました。」

                        「では、Loti だったのですね。

                    あの『お夫人』を書いたピエル・ロティだったのでございますね。」

                      青年は愉快なを感じていた。

                  H夫人は、そうに青年の顔を見ながら、

                      何度もこうつぶやくばかりであった。

                           「、ロティと仰るかたではございませんよ。

                                 ジュリアン・ヴィオと仰る方でございますよ・・・。」
               

                                                           『舞踏会』


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        今月の    Chat du mois

               月のねこ   Chat octobre



                              貰はるゝまでのの名子猫たち  上野白南風


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                       本当のところは、猫なんていたくなかったのだ。

                    以前、ユング派の精神分析医の治療を受けたことがあったが、

               その医者は、僕に、

                    猫をったらいい。とすすめた。

                        どうして、みんなあれほどぼくに猫をわせたがるのだろう。
                                                                   ロペイト 『猫を飼う』


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                                  まず、手始めに、ついでを飼う。


  江籠正樹
                   江籠正樹     
             

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                                それから、そして


                ブランドジュエリー18kゴールドシルバーcolgantes猿のネックレス女性女性のアクセサリー


                       さらにへと進み、

                                 最後にだ。


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               愛への信頼がぐらつき始めているご時世だから、

                         やたらに〈〉とかが人々の口の端にのぼる。


               彼等は言う。でもいいからだきしめろと。


                                                  o0319045011713973640_convert_20151004160422.jpg


                   だが、ぼく自身は、愛をだに信じている。
                                         
                         〈〉なんぞどうして要るものか。


                     わかった、わかった。それなら、どうして猫を飼う気になったのかね、と

               きたいのでしょう。


                                      1ねこの名前


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                  ある週末のこと、ぼくはを訪れていた。

                  友達の家だったんだ。同じ家にひとりの老人が滞在していた。

                  クロードという名のな老人、尊敬されている作家だった。


                                              ねこの名前3

                                       
                            の空いた着古しのセーターを着ているが、それは、もう他人にむかって

                        飾り立てる必要がないからだ。

                  猫をくれたのはだった。

                                              ねこの名前
                                                               

                        彼とぼくは、彼の部屋の入り口に立ち、

                  母猫が、たちと眠っているのを見下ろしていた。

                                           
                                     ねこのなまえ1

                                                                    

                  いや、大変な陣痛があってね。いつもこの子はわたしににいて欲しがるものでね。

                              人間がにいるのを嫌がるのもいる。

                  まず、仔猫を入れるを用意しておかなくてはいけない。

                              しかし、もう、この子はちゃんと心得ているんだ。


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                  仔猫たちはそれぞれ異なったをしていた。

                  色、色がかったオレンジ、そして


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                  仔猫たち、どうするのです? ぼくはなく訊ねた。


                              欲しい人がいたら、できるだけあげて、だけ残して、

                                      この子に育てさせるのさ。

                             余ったやつは獣医のところに連れていかねばならん。

                    それがいとこだよ。

                                                  ねこの名前4



                         ぼくは言ってしまったのだ。 ぼくがひきうけますよ、と。

                      老作家は、ぼくの心を見透かすようなでぼくをみつめ、

                    ほんとに欲しいのかね、と訊ねた。


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                         に。とぼくは答えたが、声はふるえてしまった。

                    作家は、しばらくっていた。

                ぼくはまた言った。できれば灰色のやつを、ぜひもらいたいと。



                                   ロスコ2

                    ロスコ1


                    しかし、オレンジのも可愛かった。 心は乱れた。

                          外見の美しさ、さ、いつもぼくがそうしてきたように、

                            小悪魔的魅力、中身のない派手さにまどわされて猫を飼い始めるべきか、

                       友としてより堅実なを備えたものを選ぶか・・・。


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                    ぼくは灰色の方を選んだ。

                 猫がもうすこし大きくなったら、するよ。 クロードは云った。


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                    ニューヨークに戻り、二、三日経つと、ぼくはとんでもないいをしてしまったと気付いた。

                        猫なんて飼いたくないんだ。ぼくは、あのになりたいだけなんだ。



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                             クロードが電話をかけてきて、もう猫を取りにきてもいと云った。

                        ぼくはたい気持ちでタクシーに乗り込んだ。

                   友人から借りた金属製の猫用の手提げ箱も一緒だった。


                           クロードのアパートに着く。

            ぼくはできるだけく事を済ませたかった。

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                       クロードに挨拶し、灰色の猫の上にかがんで、

                        やあ、、と云った。

                          いや、それはあんたのじゃない。 そいつは他の人にあげたよ。

                   あんたのは、ほれ、こっち。


                                        24803330_convert_20150925205508.jpg


                  それはオレンジ色のだった。ぼくがどんなにうれしかったか・・・。


                   クロードは、小さいボールと、キャットフードの缶と、それからツナ缶もくれようとしたが、

                   ぼくは、家にたくさん用意してあるから良いとわった。
                                             Narinari_20101021_14433_1.jpg


                   ぼくは彼とした。

                 さようなら、・・・。クロードの云った名前をぼくは聞かないようにした。

                しがらないかな、母さんや姉弟がいなくて。ぼくは訊ねた。

                   そりゃあね、だが、それがというもんさ。

                                                       『猫を飼う』
                              

                                                 20150105_3e6e0c_convert_20151004171611.jpg

              
 

          歳時記

                  saison de karo 



                           月光をんで発光体となる   山崎青史


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                       ある晩のこと、 ドクトルがぐっすり寝入っていると、

                   誰かがと窓をたたきました。

               ドクトルは窓を開けて言いました。

                  かな。

                                                   チャペック 『いながいドクトルの話』


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                     来て、来て、けてちょうだい。
                           そこにいるのは誰かね。

                               わたし、の声よ。来て、早く。
                                    いま、行きますよ。

                                         ドクトルはいそいで服を着、家の前に立ちました。すると、

                                    あたしの後ろについてきて・・・。

                            々しい、見えない声がすすり泣くように言いました。

            月はき、その光は夜空に凍り付いているようでした。 
  

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                よ、ドクトル、こっちよ。

                     ドクトルは長い間道を歩き、やがて谷間の辺にでました。

                          何かが光っていました。

                              そこにいるのは誰だね。どこかむのかね。

                    すると、地面の上の明るいものが、声で言うのです。


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                                 わたしはの精のルサカなの。

                           姉妹たちと踊っていたら、につまずいたのね、きっと。

                    もう、立ち上がることもできませんの。

            足がとても、とてもいの・・・。


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                        そうかい、お嬢さん。ドクトルは言いました。

                   たぶん、骨折、つまりの骨が折れたのだろうね。


                                  ブレイク

                             

            それで、あんたはこの谷で週末になるとダンスしているたちのひとりというわけだね。

                 たちをダンスの輪にひっぱりこんでは、

                     息がえるまで躍らせるという・・・。

                  それが悪いことだって、あんたにはわかっているかな?


                                     061-b41bd-thumbnail2_convert_20150920234726.jpg


                 、ドクトル。

                   妖精はうめきました。

                あたしの足が、どんなにいか、わかってらっしゃるのかしら。

             わからないものかね。骨折はいものだ。


                                      妖精5



            ドクトルはもうも骨折の治療をしたことがありました。でも、

                    今度は違いました。だって、妖精の体は光でできているんですからね。

            の糸で包帯をしようとすると、

                   ルサカは体をふるわせて、 、そんなナワみたいなもので・・・。

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            折れた足をの花びらで固定しようとすれば、

                     まるで固いを押し付けられているみたいだワ、と泣き出す始末。

                         そこで、ドクトルは、

                  カゲロウの羽の上のの光をつまみ取って添え木をつくり、

            月の光のつくる虹が七色に分かれた、そのいちばんい光の筋で結んでやりました。


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            さあ、お嬢さん、足の折れたところがくっつくまで、かにしていなければいけませんよ。

                  でもね、どうして君たちはこんな処にくすぶっているのかな。

            以前ここにいた妖精たちは、みんなもっといいをさがして、

                  出て行ったというのに。
 
            に? 妖精は聞きました。

                  映画に出てるんだよ。映画の中で踊りを踊るんだ。
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                        ディズニーピクチュアフィギュアより                                    


                         映画の中で踊っている連中のりときたら、たいそうなものさ。ドレスに化粧品。

                               あんたの着ているような流行おくれの服なんか、着ちゃいないよ。


                                                         3b2404ee8dfdae2edbfa0c4e04358fbf-600x281.jpg
                             
                           失礼ね。あたしの服はの光でできているのよ。

                       いまじゃ、ドレスのは変わったからね。

                さあ、もう夜がけるよ。映画のことは考えてごらん。

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                    それから、ドクトルは妖精の姿を見ていません。

            には、ほかのいたずらものたちもいなくなりました。

                             きっと、映画に出るようになったんでしょうね。


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                                          螯也イセ・点convert_20150920005359


               ドクトルはそっとをつむって言いました。

                           よく注意してみてごらんなさい。

                      映画館では光を消して、にしないとなにもみえませんね。
 
                  スクリーンの中の人に、ることはできないでしょう?

                               体がでできているからなんです。

                                                       『いながいドクトルの話』


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