歳時記 

                 saison de karo  


                  食いたしされどを泳ぐ  橋本夢道 


                                       さんま2


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       秋の味覚。ばしくてオイリーで、ちょっとくて・・・。みんなが好きなさんま。 

       さんまの文学と云えば、あの『の歌』佐藤春夫の独壇場ですね。

       この詩が書かれたのは大正末期、1921年。詩人は29歳でした。

       それから年近く。 実は近年の詩人も、秋刀魚の詩でがんばっているのです。


       ふたりのの二匹の どっちがお好きですか? では、先行の名作から。

               
                                     

                               の歌           
                                                        佐藤春夫 

                            あはれ 秋風よ 情あらば伝へてよ
                            男ありて 今日の夕餉に ひとり
                            を食ひて思ひにふける と。

                   
                   そが上にき蜜柑の酸をしたたらせて
                   を食ふはその男がふる里のならひなり。
                   そのならひをあやしみなつかしみて女は
                    いくたびかき蜜柑をもぎて夕餉にむかひけむ。


                                                    青みかん1

                              あはれ、人に捨てられんとする
                              妻にそむかれたると食卓にむかへば、
                               愛うすき父を持ちし女の
                              小さき箸をあやつりなやみつつ
                              父ならぬ男にの腸をくれむと言ふにあらずや。



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                                     大根おろしもタップリ。                                        


          あはれ 秋風よ
                あらば伝へてよ、
                      夫を失はざりし
                      父を失はざりしとに伝へてよ
                           男ありて 今日の夕餉に ひとり
                                   を食ひて
                                          をながす と。

                   
                         さんまいかつぱいか。
                                  そが上に熱きをしたたらせて
                                     さんまを食ふはの里のならひぞや。
                                             あはれ げにそは問はまほしくをかし。
                                                                        佐藤春夫


                              さんま4
                                           お刺身も最高。


                   若き佐藤春夫は舞台女優との同棲にれていました。
   
                      なにかと相談にのってくれたのが先輩谷崎潤一郎ですが、

                         谷崎自身も奥さんと

                           その谷崎夫人千代と佐藤は愛し合ってしまうのです。

                              困難ないきさつのすえ、ふたりはばれます。 

                         秋刀魚の歌は、子連れ(幼かった谷崎の娘)のを思い出すメランコリア。 


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              秋刀魚2
                      イタリアンはオリーブオイルを使ってオーブンで。 osakaガスさんのレシピから

                         
                             
                        佐藤と千代の人目をしのぶ関係にはが寄添いました。

                                   さて、 もう一篇は1999年作。

                       こちらののないご夫婦の食卓にのぼります。                                                                                     

                                      2014-09-02_052214_jpg_pagespeed_ce_SzR_84EakG.jpg
                 


                                   利己的な 
                                                           松井潤                          

                リチャード・ドーキンスによるならば
               遺伝子に支配されている 遺伝子の乗り物
                 なのに10年たっても
                    次のへの送り届けの任務に
                       着きもせぬまま二人の家族として ある

            怠慢のそしりはまぬがれぬ 生物失格のをおされる などと思わぬではないが 深刻でもない                            

                             環境ホルモンの悪魔が人類を襲っているひとつの必然
                           とまでは開き直りたくもない が このごろ
                     が絶滅したのは環境ホルモンに侵されたからにちがいない と確信するようにはなった


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                                    梅煮でサッパリと・・・。
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                      生命の伝達者である遺伝子に抗っているわりには
                           なんとものんきに寝入る妻のを覗き込んでは
                       頭のなかで叫んでみる
               「は遺伝子の脅迫に耐えてんだ」
                        結婚生活に憤りはない  ことさらの不幸もない
                           老けたほかに何が変わったのか
                      のキューピーマヨネーズは  いつものようにくびれている
                           つくらない不幸 つくった不幸 どっちでもない日々 

                      あたり前でない後ろめたさ しないもどかしさは  あるようである 
                        それに向き合うかすかな手触り 蓄積されてきた会話の束 
  
                           きょうも買ってきた  一本ずつの

                                                                      松井潤

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                    佐藤のさんまも松井の秋刀魚も、しい男女の形に見えます。 

         でも、もっとしい子供たち・・不仲の両親を持つこどもと、生まれてこないこども・・・のでもあるのですね。 
                                                            
                    よく知られたも素晴らしいですが、現代のもなかなか・・・。  
                                                                      カロ
           

                                秋刀魚
                 
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         今月の  Chat du mois

                         月の猫  Chat septembre                                            
                        

                         の咲く猫町に出にけり  平井照敏

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                      細い山道は、径路に沿うて林の奥へえていった。

                        私はに不安になった。
              
                          後へ引き返して、最初の道へ戻ろうとした。

                            しかし、一層地理を失い、のなかへ入ってしまった。


                                                           荻原朔太郎  『町』



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                         繁華ながあった。

                                  を見るような思いをしながら、

                   町の狭い横丁から、大通りの中央へ出た。

                                    商店や建造物は、古雅で奥ゆかしく、

                           歴史とを物語っていた。

                      大通りには、ガラス窓のある西洋風の家が多かった。


                                  猫町7
                                                    谷中 ギャラリー猫町

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                 旅館も洗濯屋もあった。

                         街は賑やかに雑踏していた。

                              そのくせ、少しもがなく、ひっそりとしずまりかえっていた。

                      も、皆上品でつつしみ深く、典雅でおっとりとした様子をしていた。


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                      皆、低いかな声で話していた。

                      ・・・・猫 猫 猫 猫 猫 猫   

                                 見れば、町の街路に充満して、の大群が歩いているのだ・・・。   

                                               『猫町』


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                                                      ルイス・ウェイン 画               
                                                                                                                   猫町6
  金井田英津子 画

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                 荻原朔太郎は猫に憑かれた

                      同じく猫に憑かれた芸術家が、イギリスのルイス・ウェインです。

                         彼はキャリアを通じて猫のを描き続けますが・・・。

                             やがて、精神に変調をきたすようになるのです。


                                              繝ォ繧、繧ケ・狙convert_20150907195645

                                                     初期はオーソドックス描法。


                                 ウェイン1
                                                   
                                            だんだんイラスト化。


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                         猫たちに不思議な警戒感が現れ始め・・・。


                                              ウェイン4

                                                    無表情に。 この後はちょっと痛ましくて・・・。
            

                                cat-with-green-eyes-871298226869aN0_convert_20150907204836.jpg
                                 
                          
            ウェインの絵は、人が心を病むほどにその表現もれてゆくサンプルのように考えられてきました。

                   でも、そうでしょうか。

                         時間を追って形をえてゆくウェインの猫は、

                            彼がに自己をつなぎとめようとしたのように思われるのですが・・・。
                                                                            カロ

                                                              
                                      猫町1

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                                                      ウェイン3
                                                                    ウェイン 画
               
                   ここは、人間の住む世界ではなく、

                             ばかり住んでいる町ではないのか。

                                   こんな現象が信じられるものか・・・。

                                                                      『猫町』


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                                 私は自分がくなった。

                                       もう一度目を開いた。その時、もうあの不可解なの姿は、

                               私の視覚から消えてしまった。


                                    サルビア1
                                      


                      人は、私の物語をして、詩人の病的な錯覚であり、

                      愚にもつかない妄想の幻想だという。

                      ・・・・・・だが、私は確かに猫ばかりの住んでいる町、

                      が人間の姿をして、街路に群集している町を見たのである。

                                                               『町』



                町に行くことができるのは、ホントに猫が好きな人。
 
                             そして、ちょっとしい人。   カロ



                                     1_70846c20dde56fac528224f2dff6815715f6529e_250x200.jpg

                                      いらっしゃい・・・。ねこ




           歳時記

                    saison de karo


                                     やポテトチップス   杉山久子

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               パートからの帰り道で小さなパン屋に寄り

               を買ってから、ふたたび自転車に乗ってを曲がったとき、

               したいい匂いを感じた。

                                             干刈あがた   『物は物にして物にあらず』より


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                          ああ、なつかしい匂い。

                    でも、の匂いにしては早すぎる。

               の匂いは、枯葉と子供のオシッコのような匂いなんだけど・・・

                        それとも違う。

                            信子は自転車のペダルをこぎながら、まわりを見た。



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                                  あら、いつの間に・・・。

                         小さな家が並んでいる通りに、と、せまい空地ができている。

                家が取り壊された後の敷地が、整地されて、黒々としているのだった。


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                    黒土の匂いって、にいい匂い。

                       ミミズを掘ったり、校庭の草むしりをした時の匂いだわ。

                   信子は敷地を見まわした。といっても、で見えてしまう広さで、

                     二階建ての家を建てても、家族で住むには狭いといったくらい・・・。

                             と同じくらいだわ。どんな家が建つのかしら。


 
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                          玄関の鍵はあいていた。

                               鍵ばかりではなく、ドアもだった。

                                      裕太の運動靴がぬぎらかしてある。


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                       、帰ってるの?

                             大きな声で言いながら、信子は靴をぬいだ。


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                     玄関のすぐ先の、の床にランドセルを投げ出して、

                テーブルの一角で、裕太はにピーナツバターを塗っていた。


                                               繝晢シ胆convert_20150906082147


                                             なんか、食べるもの買ってきた?
 
                              ピーナツバターも残り少ないこの頃だよ。


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                        残り少ないって、あんたね、三日で一瓶たいらげてるじゃないの。

                               ドアは閉めておきなさい。

                                        うちに盗まれるようなもの、なんかあったっけ。

                   食べ盛りがいるから、預金通帳の残高も残り少ないこの頃です。

                                信子はポテトチップスを渡した。

                                    


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                            保育園のこっち側に、マッサージの看板が出ている家があるでしょう?

                         あそこのりはどんな家があったんだっけ?

                     犬がいた家じゃない? 茶色い大きな犬。ぼくよくえられた。

                           裕太はをほお張りながら言った。


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          は借地で、犬を飼っていたおじいさんは地代をためてしまったために立ち退かされたのだ、

                            という話を聞きつけてきたのも裕太だった。


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                      に。
 
                        そんなことないよ。すごく立退料っていうの、もらったんだって。

                            あそこ、榎本君ちのおじいさんの土地なんだって。

                                榎本君って、駐車場や酒屋さんの一族の榎本さん?


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                        うん、・・・・土地を持ってるっていいね。働かなくていいんだもん。


                   ねえ、。 信子はすこしおどけて言った。

               あんまりさせてあげられなくて悪いけれど、みみっちい子にならないでおくれ。


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                             あのおじいさんは犬のために立ち退かなかったんだって。

                                それで、犬はどうしたの。

                             犬が死んだから、おじいさんは老人ホームに行くことにしたんだって。
 
                                 裕太はの封を切った。

   
                                                           『物は物にして物にあらず』
                                                           
                          
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