カロ歳時記 

              saison de karo 105



                     月光に透けて心の見えざるか    文挟夫佐恵

                                    
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                アマンダ  ローラ、ローラ。


                 ローラ  なあに、お母さん。


                アマンダ  お皿なんか放っといて、こっちへ、いらしゃい。

                       ローラ、ここへきて、さ、おさまにい事をするの。


                 ローラ  おさま・・・おさま?

                                                


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                アマンダ  可愛いおさま、のおみたい。さ、ローラ、

                       からだ、こっち向けて、の肩ごしに、いごとをするの!

                       さ、早く! 早く、おいしなさい。


                 ローラ  何を、おいするの、お母さん。


                アマンダ  しあわせを、さ、を!


                                                   テネシー・ウィリアムズ 『の動物園』


               


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                トム  お母さん、ローラは、他のとはずいぶん違ってるんですよ。


             アマンダ  わかってますとも、他のと違ってるところが、あの子の良いところだと思ってます。


                トム  いいとばかりは、映らないでしょう。はじめて会う人の目には、ね。

                     屋も、度がはずれてますよ。

                     ローラのは、自分ひとりだけのに閉じこもったきりでしょう。だから、

                     他人に言わせると、多少、わり者だってことになるんです。

                     
              アマンダ  いけません! そんな言葉。わり者だなんて。



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                      トム  事実は事実として認めるんです。

                             お母さん。ローラはわり者ですよ。

                                ちっぽけなの動物たちのに、生きてるんです。

                                   せいぜい、古ぼけたレコードをかけるくらいが関の山、

                                      何にも他にしやしない。

                                                    

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             小説家志望のトムはの三人暮らし。

                   部の名門だった家は事業の失敗、父の出奔で破産、

                                トムは倉庫に勤め、一家はびたアパートに逼塞している。


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                 昔のが捨てきれず、娘ローラになんとか結婚相手を見つけたい母アマンダ。

                     ところが、ローラは人前でしゃべることも出来ないな娘。

                   古いレコードをかけては、

                     蒐集したの小さな動物たちを磨いて暮らす・・・。


               「倉庫に勤めている人で、かお姉さんのおになってくれる人、いない?」



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               トムが引っ張ってきた仕事仲間のジムは・・・・・・。



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                ジム  ははあローラ、あなたの悩みの種、なんだと思います?
 
                     インフェリアコンプレックス、等感ってやつですよ。

                     自分自身を安く見る、そいつを言うんです。

                     でも、でもあるもんですよ。自分が特に興味を持ってるってこと、

                     そういうものが、何かひとつ、ありませんか。


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               ローラ  わたし、の蒐集をしてますわ。

                     可愛いの製品、たいていは装飾品なんですけれど。

                     製の、小さな動物が多いんですの。とっても可愛いちっぽけな動物。

                     だなんて、うちの母はそう呼んでますの。

                     ご覧になります?

                     これ、もう十三才になりますの。

                     あッ 気をつけて。 をするとこわれますよ。

                     ほーら、お上手ですわ。

                     その持ち方、って・・・。

                     りの方へ近付けてやってください。

                     りが、とっても好きなんですの、その子。



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               ジム   ねえ、いったい、こいつ、なんて動物?



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              ローラ   額に、が一本生えてましょう?

               ジム   あー、そう、・・・? でもなんて動物、もう現代には、いないんでしょう?

              ローラ   そりゃあ、いませんわ。

               ジム   かわいそうに、こいつ、ひとりでしいこってしょう。   



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               ジム  ローラ、いいですか、僕にあなたのようながあったら、
                     
                    トムと同じように、自分の友達を呼んできて、紹介すると思いますよ。

                    でも、僕の場合、僕の立場としては、

                    いわば、赤札がついているんです。

                    ベティーってなんですけど、

                    あなたと同じで、やさしくて、おとなしくて、・・・僕たち、うまが合うんです。



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                 ジムは帰っていった・・・・。



          アマンダ  トム、あの人がしてるなんて、一言も云わなかったね。あんた。          

             トム  おどろいたなあ、ちっとも知らなかった。

          アマンダ  倉庫でいちばんの親友だって話じゃなかったの。

             トム  倉庫ってのは、仕事をするところですよ。

          アマンダ  倉庫にかぎらないんでしょ。あんたって人は、どこへ行ったって、
                 
                 の世界に住んでるんだから・・・。まぼろしを作るのが仕事なんだから・・・。

                 何処へ行くの? あんた、何処へ行くの?

             トム  映画へ行くんですよ。

          アマンダ  行ってらっしゃい。わたしたちのことは何にも考えることはないんだから。

                 夫に捨てられた親、内気で失業した・・・・そんなものは、どうだっていいんだから。

                 行ったらいいさ。行きなさい、の世界へ!



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                 トムはを捨てる・・・・。



               トム   ぼくはの世界へは行きませんでした。

                               もっとはるかにいところへ行ったのです。

                        何がいって、のへだたりほどいものはないんですから・・・・。


                                               テネシー・ウィリアムズ 『の動物園』


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   今月の    Chat du mois
        
          のねこ Chat septembre


                                 秋めくと猫に眉毛を描く女    飯田綾子


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                 薄いのワンピースを着たと、

                      のリボンの飾りがついたわら帽をかぶった叔母は、

                           車の後部座席に正坐して、何かれ物はないかと話し合っていた。

                                                       宮本輝  『


               
                    ねこ 眉あ                                           


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             ねこ 眉6



                             「もうええわ。らんもんがあったら、向こうで買うたらええねんやさかい」


                           そので夏を過ごすことになったのは、

                 私が前の年に結核にかかったからだった。

                 

                             「ごはんごしらえをする者がおらんと、生活でけへんがな。

                          ・・・・せっかく行くんやから、とめさんもてあげよか。」

              
                          はそう言うと、すぐに叔母に電話をかけた。叔母は亡くなったの妹だ。

                              一人暮らしの叔母は大喜びで誘いに応じた。



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                     車の中で、と叔母は昔の話ばかりしていた。

                               運転席でふたりの話を聞きながら、

                          今まで誰にも話さなかった事柄を、

                         が何の屈託もなく口にしているのをに感じていた。

                        は私が高校生のころ、自殺を図ったことがあった。


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                 「おちゃんはよそにをつくっておらんようになってしまうし、

                 商売はあかんようになるし、

                 毎日借金取りは来るし、

                 ええい、もうんでしもたれと思てん」



                                まゆ



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                         「東難波で降りたら、バス停の前に食堂があって、

                            そや、ぬ前に何かおいしい物を食べとこ、

                               うな丼を注文して、お酒も一本たのんだんや」

                                  は両手で口を押さえて笑った。


                                                                  ねこ 眉01



                 「を飲んだ瞬間、どんなことを考えた?」

                 「何にも考えへんかった。しばらく横になっているうちにってしもた」



                                  ねこ 眉04




                 私たちが借りた家は、を百メートルばかり行ったところにあった。

                 鬱蒼とした木々に囲まれたの平屋だった。


                 は持ってきた荷物の整理を始めたが、

                 突然っと声をあげて私を見た。


                                                   ねこ 眉10



                              「を忘れてきてしもた」

                              「?」



                               ねこ 眉1


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                                  「どないしよう、あれがないとるねん・・・

                                      駅の近くに品店はないやろか

                                  今から買いにいくから、車に乗せてえな」

                                            私とはまた車で駅前まで行った。


                                  ねこ 眉00



                ちょうど駅の前に屋があり、化粧品メーカーの小さな看板に灯が入っていた。

                食堂や洋品店らしきものが見えていたが、

                にかすんで人の姿は見えなかった。



                                が寝る前にを塗るようになったのは、ここ一、二年のことだった。


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                頭髪は黒くめていたが・・・・・

                寝床にはいる時、布団の上にして、

                念入りにを塗るのである。


                その訳を聴いても、はただ照れくさそうにうだけで、何もえなかった。

                                                              宮本輝 『


          ねこ 眉い

                                         
                                                ねこ 眉2
                       
 
    カロ歳時記 

          saison de karo 104

                 

                            月光に半紙を折ればナイフめく 九牛なみ


                                        月3




                                  月光6




                      その、一枝は連絡船で下ノ関に着いた。

                      田舎の町まで行く汽車の出るまでには、まだ時間がある。

                      と町を歩いていると、金物屋があった。


                       
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                      そのほんの一町ほどの町中に、なぜ金物屋があったのか。

                    田舎の町では見られないしい電灯の光の中で、
                      
                    いろいろな刃物が列んでいるのを見ると、

                      一枝はさっとその店へ這入っていったのであった。




                                                  宇野千代  『或る一人のの話』



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                  があった。があった。ナイフがあった。
               
                                庖丁があった。

                      短刀があった。きちんとよく整頓して列べてあった。

                        「を下さい。」

                     店番の老爺は何の躊躇もなく、紙に包んでそれを一枝に渡した。

               
                             小刀のような鞘の短い短刀であった。



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                  蒸し暑いであった。

                  一枝はいま、自分が何をしたのか考えても見なかった。



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                    いま、何かしていても、次の瞬間には何をするか分からない、そういうなっかしいがいる。

                       そのは良いでも悪いでもない。
                                                  


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                   ただをするのか人にも分からないが、自分にも分からない、一枝はそういうであった。

 
                                              『或る一人のの話』

                                 

                                            月光5  




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                                    宇野千代
              


                                                  ブラッサイ




                         1945~2013

                                       語学家   句作は静謐 思索的。



                         月光に音あらばこのさざれ波      なみ




                ナイフ