カロ歳時記 

            saison de karo 101


                          夏休み少年の傍少女ゐず    岩月通子



     
                   ダイニングキッチンから白いペンキを塗ったテラスが見え、

                   その向こうには、々やを含んだ草の斜面にが広がっていた。

                   九時半だった。


                                                                                                                 夏休み1




                        夏休み3


  
               龍一は買ったばかりのBVDの白い下着とパジャマのズボン姿で冷蔵庫をあけた。

                                   はひんやりとして十九の皮膚がひきしまる。



                          夏休み5



                夏休み7



                   コーンフレークと牛乳と果物の缶詰を二種類だす。

                     野菜入れをあけるともあった。

                      も欲しいところだが、あいにく切らしていた。

                                                佐藤泰志 『しずかな


                                            夏休み6




          首都をするとき、後部座席にの全集を五冊積んできた。

                        あとはパジャマとわずかな着替えと水着だけだ。

                     三日ほど前、親とふたりの三人連れが、タクシーでやって来た別荘が、

                              五十メートルほど下の斜面に建っている。


                                                 螟丈シ代∩・撰シ撰シ神convert_20140714172434



              ゆうべ、母親の眼を盗んでやってきたあのは、彼よりひとつ上だった。

                                    龍一は風呂上がりで、パジャマに着替えたところだった。

                                   玄関のドアをする音がしたので、

                            あけてみるとシャツにジーンズの彼女がんで立っていた。


                  おそくなったわ。さっき母と妹がやっとにはいったの。


                    でもする?

                      それよりを消してくれないかしら。



                        螟丈シ代∩・論convert_20140713192405
                                    


                           全くな女の子だ。


                    あの下の別荘で、彼女はまだりをむさぼっているかもしれない。


             タウン誌に目をやり、今日はどうを過ごそうかと考えた。

                  産業道路沿いに出来た店の紹介、彼にとっては珍しくもない。

                たいがいの場所は行った。行ってないのは、この狭い別荘地の上にあるだけだ。


            僕の頭上にあるのはそれだ、と考えるとなんだかひどくだ。


                                  螟丈シ代∩・神convert_20140713220629


               そう言えば、はあそこに墓をひとつ買ってあるはずだ。

                 この町はだ。

                   い頃、炭鉱の事務の仕事に見切りをつけて、

                      首都に出て不動産業で成功した。そうして、に墓と別荘を買った。


                        まるで、自分の会社に勤めていた女子社員を、のかわりに手にいれたようにだ。


                    去年両親はあっさり離婚した。


                は父が残したこのちっぽけな別荘を売りにだしている。 


                      夏休み02
 



                                   夏休み1



                に腰かけ、テラスの手すりに足をのせる。

                   光は次第に柔かみをまし、にはうってつけだ。

                はもう三冊読んだ。

                  あと二冊読み終える頃にはが人でいっぱいになる。



                               夏休み2


                  六十三ページをひらく。

               ひとりのをぼくはへ連れていった。

                   しかし、驚くほどの、特にしいことは何も起こらなかった、という文章から読み始める。

              撲はだ。あわてることはない。驚くほどのことは何も起こらない。

             の彼女のことだって、のことだって。


                        img_9_convert_20140713160924.jpg


                ひとりでいてしくない?

                ちかく、うとうとしかけた龍一に彼女はそうたずねた。

                 そういうことは感じないたちなんだ。

                    こういうのはどお? 首都に帰ってもお互いにわないの。

                    それで、またここで、こうして会うのよ。

               だよ。いい考えだ。


                                                 夏休み00


                     八十二ページの九章目まで読んで本をじた。

 
                      君もに来いよ。人目がないんだ。

                      には何も隠してはならないんだ。

                                           そこまでだ。続きは


                                youngman6.jpg



              彼女はも、斜面をこっそりのぼって来る。

                     ぼくはを読み終わる。・・・・

                だしぬけに、読んだばかりの小説の一節が浮かんだ。


                  君もに来いよには何も隠してはならないんだ。


             ほんの、彼は自分が他人を省みないでも平気でいられるのひとりのような気がした。

                                                           佐藤泰志 『しずかな
                 



           
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           今月の    七月のねこ

                       Chat du mois  Chat juillet


                                    小食の猫を励ます夏の月 桑原三郎


                                         ねこ さんま

                       おの方が良かったニャン



                 夜、酒がまわれば、部屋のでそっぽを向いて寝ているモンへ、

                 「おい、モン、でも将棋の相手くらいできようが・・・。」と絡んでみる。

                 モンは心得たもので、

                 尻尾でパタパタと畳を打つだけでもしない。

                                                              沼田まほかる 『猫鳴り』


                                            ねこ 〒受け5




                                 ねこ 〒受け7


                  
                 があいかわらずだった。

                 生来几帳面なたちで、雇われ大工として勤めた工務店を退職した後も、

                 藤治はをもてあますということはなかった。


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                 毎夜の晩酌二合をしみに、身の回りの雑用を片づけたり、

                 近くのスーパーへ食糧を買いにいったり、

                 庭をいじったりしているうちに、

                 怖いようならかさで日が過ぎていった。


                ねこ 〒受け1


                                       ねこ白黒

                                  

                 死んだとは、人なみに仲の良い夫婦だった。 

                 ではなく、か言葉のやりとりのできる相手が恋しいと思う日もあった。

                 がふさぐ日もあれば、えやすい日もあった。

                 ちょくちょく将棋を指しにきたたちも、一人また一人と顔を見せなくなった。       

                 
                                   ねこ 〒受け11
              
 
                
                 藤治もモンもすこしづついていった。

                 モンはそわそわと日に何度も外へ出ていくようになった。

                 どうやらオシッコが近くなったらしい。

                 藤冶はのプラスチックの箱と袋入りの砂を買ってモンのトイレを作った。

                 新しものきのモンは待ってましたとばかり中にはいってオシッコした。


                                        ねこ 〒受け10


                 やがて、きだったカマボコも貝柱もだんだん食べなくなり、

                 普段の動作もなんとなく緩慢な感じになってきた。

                 せめてこのままのがいつまでも続けばいい。・・・藤冶はそう思う。


                              ねこ 〒受け02
                                         


                 だが、モンは、ますます餌を食べなくなってきた。

                 藤冶は獣医に電話をかけた。

                 夕方、父親に頼まれたと、見慣れないい獣医が車でやってきた。


                                ねこ 〒受け03


             
                 獣医はモンのを聞いてしばらくっていた。

                 そして、入院させて長時間の点滴を受けさせるがあるかどうかとたずねた。

                 そんなことをしたらこいつはんでしまう、と答えると、

                 うなずいて、
                
                 「正直言ってうところです。往診でできる範囲の治療をしながら様子を見るか、それとも・・・。」

                 「はあ。」

                 「このままただ、ようにさせてあげるか。」

                 「そんなに、こいつ、悪いんですか。」

                 「二十歳でものを食べないとなれば、一応のをしていおいたほうがいいかもしれません。」



                                    ねこ 〒受け8



                 モンはも食べようとしなかった。

                 「なにしろ、にも食べようとはしないもんで・・・。」

                 再び往診に訪れた獣医に、話しながら、藤冶はをあつくした。


               ねこ 〒受け3



                       

                 「モンちゃんのためにどうしてあげるのがいちばんいいか、
 
                 はもう決めてらっしゃるんじゃありませんか。 

                 ただ、たいへんにい決断なので、僕の意見を聞きたいということなのでは?」

                 なんとえればいいかわからなかった。

                 「もしそうだとすると、僕はためらわず、モンちゃんのきなようにさせてあげることを

                 おめします。」


                                        ねこ 〒受け9



                 一週間目に、また獣医がやって来た時、藤冶はなさけないことに、

                 また少しいてしまった・・・・。


                 「しいのは、これは、仕方のないことだと思います。

                 ですが、を抱いたりすることではないんですよ。

                 だって、今起こりつつあるのは、とってもなことなんですから。」

                                                              沼田まほかる 『猫鳴り』


                   勿忘草1



                 モンちゃんはこの後、本当になおだやかな最期を迎えますが、

                    やっぱりしくて、この辺にしておきますネ
                                                      カロ


                                      ねこ 逆光
                               

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  カロ歳時記

        saison de karo 100



                    竹林を揚羽はこともなく抜ける    宗田安正


                竹林1


                   竹林0
                 


                                            竹林11



                「喜助はん、あんたはん、あれ知っといやすか。」

                玉枝は床の間の横に置いてある箱を指さした。

                「どすねやわ。おさんがおつくりやしたもんどっせ。

                おさんが、うちにおくれやしたどっせ。」

                喜助のガラス箱をみている目が釘付けになった。

                「・・・もう十年になりますかいなあ、喜助はん、あんたはんはまださいころやった。

                おさんはうちを可愛がってくれはったんどっせ。

                あのおさんをわざわざつくっとくれやしたんどすがな。」

                                                          水上勉  『越前竹人形』


                           竹林6



                喜助はガラス箱のふたを開けた。

                一尺くらいもありそうなそのを手にとってみた。

                見事な細工と言えた。
 
                江戸時代のであろうか。

                うしろへ髷をつきだしたような髪型に、蒔絵の木櫛、衣服は帷子を模したものである。

                鹿子や柄地がの皮の模様によってつくられている。

                前で結んだ大きなも、すべての皮でつくられてあった。




                   竹林5

                                         

                「おさんがな、うちにくれるちゅうて、わざわざここまでもってきてくれはりましたんえ。」

                       喜助は、のどの部分にもの精根がこめられているような気がしてがつまった。



                            竹林8



                   山裾のの梢にさみどりのが吹き出している一日のことである。
                                    
                    小屋にこもっての糸鋸をいっしんに使っている喜助の耳へ、人の訪れる気配がした。
                         
                          「ごめんやす。」

                             喜助は膝がしらの塵を払って、急いで戸を開けに立った。

                         戸口に玉枝が立っていた。


                                            竹林13




                         ・・・・・・母屋の座敷に通すと、縁先の戸を開けた。

                         仏壇にをともした。


                             竹林4


                         「喜助さん、こっちのお位牌はおさんのどすか。」

                         「へえ、そうどす、おはんどすねや。」

                         「このおさんのお顔おぼえておいやすか。」

                         「知りまへん。三つの時に死なはったんやさかい・・・。」

                         玉枝はん、あんたはおはんどないしやはりましたんや。」

                         「・・・もう死なはりましたんえ。」

                         「おさんは。」

                         「知りまへん。・・・あてはおさんの顔を知らしまへんのえ・・・。」



                           竹林15



                          玉枝は喜助の出した茶を飲んでから、母屋を出た。

                          の藪をくぐって、丘の上の喜左衛門の墓に詣でた。



                                 竹林10

                                                 

                          
                          墓前にはの筒に深紅の椿の花が活けてある。

                      「きれいなどすなあ。」

                      「お父つぁんが好きどしたんや。藪のはしに四、五本ぱらぱらに植わってますのんやけんど、

                      こんどここに植えかえよう思うてます。」

                      なんまんだぶ、なんまんだぶ・・・・

                      玉枝はいつまでもそうしてつぶやいていた。


                                               竹林9

                           


                          「こんどは、お父さんのお好きやった椿の木ィを

                          植えかえはるのんのお手伝いにきますわな。かましまへんか。」

                          喜助は嬉しくなった。

                          椿の木を植えかえるのは明けの頃である。

                          「明けの頃に植えかえますのや。そんなら、

                          玉枝さんは、またその頃に来とくれやすか。」

                          「きっとよせてもらいます。」                                                                                           
                                                          水上勉 『越前竹人形』


                   竹林12


                                                   竹林7