Chat du mois 今月の

Chat octobre 10月のねこ


            ねこじやらしその数だけの猫がゐる 平井照敏


ねこじゃらし6




                                     リリーや         ヤア

  



 リリーや           ヤア





                                                  ねこじゃらし

                                               



                何度も何度も、彼女が頻繁に呼び続けると、その度にリリーは返事をするのであつたが、

                こんなことは、つひぞ今までないことだつた。


谷崎潤一郎 『と庄造と二人のをんな』
                                ねこと3

           



             自分を可愛がつてくれる人と、内心つてゐる人とをよく知つてゐて、

             庄造が呼べば答へるけれども、品子が呼ぶと知らん顔してゐたものだのに、

             今度は幾度でも億劫がらずに答へるばかりでなく、

             次第に媚びを含んだやうな、何とも言へない優しい声を出すのである。





                        ねこじゃらし1







            そして、あの青く光るを挙げて、体に波を打たせながら、

            手すりの下まで寄つて来ては、

            又すうつと向うへ行くのである。




                         ねこと1


                                


               抱かうとしても、なかなか摑まへられないので、

               暫くの間、わざと窓際を離れてみると、

               やがて、リリーは身を躍らして、ヒラリと部屋へ飛び込んで来た。

               それから、全く思ひがけないことには、寝床の上にすわつている品子の方へ一直線に歩いて来て、

               その膝に前脚をかけた。




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           これはまあ、一体どうしたことか。

           彼女が呆れてゐるうちに、リリーはあの、哀愁に充ちた眼差しでじつと彼女を見上げながら、

           もう胸のあたりに凭れかかつて来て、綿フランネルの寝巻の襟へ、

           額をぐいぐいと押しつけるので、此方からも頬ずりしてやると、だの、だの、の周りだの、

           の頭だのを、やたらに舐め廻すのであつた。




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          さう言えば、猫は二人きりになると接吻したり、顔をすり寄せたり、

          全く人間と同じやうな仕方で愛情を示すものだと聞いてゐたのは、これだつたのか、

          いつも人の見てゐないところで夫がこつそりリリーを相手に楽しんでゐたのは、これをされてゐたのだつたか。


                        
                                      『と庄造と二人のをんな』





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                                                                                笑う猫2

                                          フッ


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カロ歳時記 saison de karo 83



                   十三夜少女しずかに血を流す    出口善子



      とうろう3





           の明るそうな宵を選んで、私は慈子と庭へ下り、石灯籠にを入れていった。

           茶室の前、

           細長い灯石に四角く小窓をくりぬいた所へも静かなをともした。



                                              秦恒平  『慈子』




                                           とうろう2





                                  しらたま


         
     
         ガラスの小鉢に白玉を盛って生砂糖をふりかけた簡素な月見の菓子を慈子は運んできた。

         つやつやぬれた真白な白玉の小団子の一つ一つに

         もう月明り がきれいに光っていた。




            ねこと少女三谷十糸子1





                 その頃稽古中だった手前で、慈子は茶を点てた。
 
                                     小振りなの茶碗だった。






                   とうろう7






          あの時、慈子は五年生だった。

          まだ手も小さかった。

          ふさふさした髪が小さく傾ぎ、ちょっと肩を張って、

          茶筅を振るあの湯水の響きも軽やかだった。袱紗が大きく見えた。



          絣の着物の小さい尻が白足袋からそっと離れて浮いた。




                                               『慈子』

 


      とうろう6





               慈子の首がかすかに動いた。

               身を起して慈子は私を見据えた。

               後髪はやわらかにふくらんで、らんだ耳へほつれ毛が揺れ揺れかぶっていた。


                                                      『慈子』




                  とうろう4




                                   出口善子  1939~

                                                  句作は潔い




                            女寝て月光敷居まで許す

                                      月蝕の一人は水を見ていたり

                                                     善子
                  



              とうろう1




                       とうろう5

     

カロ歳時記 saison de karo 82


                     光から生まれてきたり露の玉 久保るみ子


              露



                                      露似真珠月似弓


 
                       露は真珠に似たり 月は弓に似たり     白楽天



                                                 月光1




       長い間便りを書かなかった友人に、その言い訳も述べず、まず想い出した白楽天の詩句を書いた。

   
                                                 串田孫一       『 についての手紙』


 


                     露1





このところ、に見惚れて時間潰しをしています。

これまでもを見る機会は多かった筈なのに、

それに心を奪われるような見方をしていなかったのが残念でたまりません。



まだそれを書くには到っていませんが、物語をひとつ考えています。

ダイヤモンドと一滴のと、どちらを選ぶかという重大な場面を入れるつもりです。

と言えば、もう筋が読めてしまったかもしれませんが、

の方が選ばれることになります。




                                                  
 


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外国の昔話によくあるような、お姫さまへの捧げものとして、

金持ちの息子がダイヤモンドを贈り、

一方の貧しい漁夫は、朝毎に草木の葉先に宿るを贈ることにします。

そして、お姫さまは、ダイヤモンドを返してを受け取るという物語。





                         露4





は儚く消えます。

朝の光が届くと、それは色を変え、高貴な恍惚にきらめきながら、

あっさりと消えて行きます。もし、それが消えて行くものでないならば、一日中見続けていても

飽きるようなことはないでしょうし、

函に入れて集められるものならば、毎日これを集めていたかも知れません。


いや、実際に消えないならば、集めて函に入れようなどとは思わないでしょう。




こんな手紙だった。





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     夜が明けて、歩きなれた小径を、いろいろに辿って、を見て廻った。


     小さいながら宇宙を直截にかたどり、球状態にあこがれ、

     固体となってその残骸をいつまでも晒すのをおそれて、

     かがやきつつ消滅する知恵を持っているようにも見えた。



                                                  『 についての手紙』




            久保るみ子 1950~2011

                       英米文学専攻 句風は無欲に尽きる。

  
            
            白桃のなかのを包みたる           
            
                       芋の大きくなれば落ちゆけり 

                                       るみ子       
     



                露2