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   歳時記  
      saison de karo 
 
                 曼珠沙華風をと思わずや 宇多喜代子

          ひがんばな8

        をのぞきこめばの中の私が私を見ており、

     さらに他人は私を、私がの中に私を見るように見ている。

                                多田智満子

          ひがんばな5
                沢渡朔  『なおみ』


ひがんばな3

 ひがんばな7


    の中では、青い私が泣いている。

   の外では、白い私が病んでいる。
 
                                   ジャン・コクトー

                     NPI_16~1

               ヒガンバナ1
 
                        ひがんばな15
                     ニャ。
            
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  歳時記
       saison de karo 

               蜉蝣に詰まる卵よ 岩尾美義
                         蜻蛉
                 
    確か 英語を習い始めて間もない頃だ。 

    初秋の宵。青い夕靄の奥から浮き出るように、白い女がこちらへやってくる。

    物憂げに ゆっくりと。 女は身重らしかった。父に気兼ねをしながらも僕は女の腹から眼を離さなかった。

    頭を下にした胎児の 柔軟なうごめきを 腹のあたりに連想し

   それがやがて 世に生まれ出ることの不思議に打たれていた。 女は行き過ぎた。

   少年の思いは飛躍しやすい。

  その時 僕は<生まれる>ということが まさしく<受け身>である訳を ふと諒解した。

   僕は興奮して父に語りかけた。

                 かげろう1

     やっぱり I was born なんだね。 

    父は怪訝そうに僕の顔をのぞきこんだ。僕は繰り返した。

     I was bornさ。受け身形だよ。

    正しく言うと人間は生まれさせられるんだ。自分の意志ではないんだね。

    その時 どんな驚きで 父は息子の言葉を聞いたか。

    僕の表情が単に無邪気として父の眼にうつり得たか。

  それを察するには 僕はまだ余りに幼かった。僕にとってこの事は文法上の単純な発見にすぎなかったのだから。

    父は無言で暫く歩いた後 思いがけない話をした。

蜉蝣(かげろう)という虫はね。生まれてから二、三日で死ぬんだそうだが

    それなら一体何の為に世の中へ出てくるのかと そんなことがひどく気になった頃があってね。

          lラカン

 僕は父を見た。父は続けた。 友人にその話をしたら 或る日、これが蜉蝣の雌だといって拡大鏡で見せてくれた。

  説明によると 口は全く退化して食物をとるのに適しない。胃の腑を開いても 入っているのは空気ばかり。

 見ると、その通りなんだ。 ところが 卵だけは腹の中にぎっしり充満していて

  ほっそりしたの方にまで及んでいる。

     それはまるで 目まぐるしく繰り返される生き死にの悲しみが 咽喉もとまで

      こみあげているように見えるのだ。 つめたい 光の粒々だったね。

    私が友人の方を振り向いて<>というと 彼も肯いて答えた。<せつなげだね。>

                  蜉蝣3

   そんなことがあってから間もなくのことだったんだよ。お母さんがお前を生み落としてすぐに死なれたのは―。

    父の話のそれからあとは もう覚えていない。 

       ただひとつ痛みのように切なく 僕の脳裡に灼きついたものがあった。

    ほっそりしたの 胸の方まで 息苦しくふさいでいた白い僕の肉体。

           吉野弘   『I was born

               蜉蝣2






  chat du mois   今月の
       Chat septembre  月の猫

                しんじつは醜男にありてくる 三橋鷹女

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           俺を見ろ・・・・。この貌に、この鼻に、どんな希望があるというのだ。
   
 幻想は抱くまい。けれどなあ。俺だって、夕暮れせまる青い空に、時として、切ない思いに苛まれる。

   哀れなでかいこの鼻で、九月の息を胸いっぱいに吸い込んで・・・。と、目に入るじゃないか。

           銀色の月光の中、 伊達な若者の腕にすがった女の姿。
 
                             ロスタン  『シラノ・ド・ベルジュラック』

               ねこブス1

     そんな時には俺だって、すがってくれる女がほしい。 恍惚として、我が身を忘れ・・・・。

     すると、庭の壁には、俺の横顔が黒々と映っているのだ。 ひとりぼっちで、涙をこらえ・・・。

                   シラノ1

                         野菊
                 
    まさか、泣きはしないさ。 見られたざまか。 こんな鼻を、涙が伝って流れるなんて。      

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      ロクサーヌ  愛しております。生きていてください。

           シラノ    いけない、いけない。 おとぎ話の中の話だ。

                 『シラノ・ド・ベルジュラック』
                                         
                      ねこブス3