saison de karo 39

ひがんばな翔びたちたいと思いいる 小南千賀子


彼岸花2


冷凍にして保存する彼岸花

ひがんばな寂しい首のつけ根かな


彼岸花1



彼岸花霊安室へ駆けつけし

ひがんばな剪っても斬っても再生し

濡れている彼岸花からコピーする



彼岸花4



水で書く遺書より震え彼岸花

                                  小南千賀子 『彼岸花』
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saison de karo 38

学校へ来ない少年秋の蝉 藺草慶子

黒板


ぼくは昆虫網を片手に下げて山路を歩いていた。真夏の午後の日差しが思い切り樹々の陰影をふかめ、草のいぶきが汗のなかにとけこんできた。と、目のまえをなにか輝かしいまばゆい物体がすばしこくよぎった。蝶だ。
なにかわからぬが珍しい蝶だ。そう経験がぼくに教えた。それにしても、どうしてぼくの膝は、捕虫網の柄をにぎった手は、あんなにわなないたのだろう。

昆虫標本3


ぼくは先年の夏、学校の宿題としてつくった昆虫の標本のことを思い出した。
それは野球や皿まわしに熱中していたころとて、ぼくとしてはかなりいい加減のものではあったが、それでも二つの標本箱の中には、大腮をひろげたサイカチ(兜虫)もいれば、瑠璃色の小灰(しじみ)蝶も紅色の下翅を持つ天蚕蛾(やままゆ)もいる筈であった。それらの虫の形骸が、鱗粉のきらめきが、この世のものならずみずみずしく思い出された。


蝶 藤島武二


ぼくは胸をときめかせて、つめたい硝子蓋の中をのぞきこんだ。しかし、たとえようもない失望を味わねばならなかった。蝶も蛾も兜虫も惨めに黴につつまれており、胴体が虫に喰われていたりした。こちらでは触覚が折れ、こちらでは翅がやぶれていた。

                    北杜夫 『幽霊』

semi.jpg

Chat du mois今月の猫

Chat septembre 9月の猫

夕顔ほどにうつくしき猫を飼ふ 山本洋子

ねこ夕顔



もうあたりはほとんど暗く、あの人が蛇を怖がるので、わたくしはそれを逃げさすために、先に歩きだしました。わたくしは少年のように自分の強さを自覚し、拾った竹切れを持って、それを快活に表現するのでした。

やがてあの人は、道の端で夕顔の花を見つけると、それを摘みとるのでした。手に白い花がにじんで、それが夕暮の色を余計に濃くするように思われました。

夕顔4



わたくしたちは紫檀の机を中心にして坐りました。
丁度あの人だけで、庭の方はふかぶかと茂って、ラジオのかかる気配さえなく、何か静かさが屋内に溢れているように思われました。
わたくしは書いてきた手紙を黙ってふところから出すと、あの人に渡しました。するとあの人はそれを二度くりかえして読んでから言いました。
「わたくし無理をすまいと思っているんですわ。今となっては運命の摂理に任せることだけを考えておりますの。」
「・・・・・・・・」

ねこ しろねこ2



その時、一匹の白い猫が静かに出て来て、縁から庭に飛び降りるなり、石の上に蹲っていつまでもじっとしていました。

                        中河与一 『天の夕顔』


夕顔1


ねこ考えるねこ