saison de karo 22

疑ひは人間にあり雪の闇 平井照敏

山と霧


「おれはよほど馬鹿に出来ているんだ。君の言うように相手は人の細君だ。何も他人の細君とごちゃごちゃするてはないんだ。世の中には女は幾らでもある。掃いて捨てるほどある。もっと若くて、もっときれいな、独身の女がいっぱいいる。
・・それでいて、気持ちが一人にひっかかっていやあがる。・・・
君はだれか女と一緒に山へ登る自分を想像したことはないか。ないことはあるまい。必ず一度ぐらいあると思うんだ。・・・山へ登るやつがそうした空想をする時、そこへ現われてくる女はその山登りにとって普通の関係じゃないと思うな。・・・・山で考える女は本当の意味で自分にとってはただひとりの女ではないのかな。」
「そうかも知れない。」
「じゃ、おれの気持ちがわかるだろう。なるほどひとの細君だ。どうすることもできない女だ。だが、おれにとっては恐らくこの世でたったひとりの女なんだ。いつかはあの雪のついた大岩壁を仰がせてみたいと思っていた女だ。」
「岩壁って?」
「東壁だ。」
「そりゃあ、無理だ。」
「・・・夢だよ。夢ならいいだろう。夢なら、それを持っていてもいいだろう。」

                        井上靖 『氷壁』

前穂東壁

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Goulue de karo  カロ食彩10

オニオングラタンを作ろう。

冬が来た。ご馳走は舌の焼けるようなオニオングラタン。一杯の白ワイン。

オニオングラタン


「長いことパリで楽屋生活をしていたけれど、寒いころの夜食といえば、『グラティネ』ときまっていた。
グラティネとはグラタンのことで、玉葱のグラタンスープの通称だ。夜中おそく仕事が終わって、御化粧をおとして、厚い外套に頬をうずめ、木枯の吹く表通りにでる。
『グラティネ食べていかない?』
誰かひとりがそういえば、みんな賛成して、まだ灯のついている角のキャフェへぞろぞろと入ってゆく。パリの安カフェのグラティネは、どんぶりのような瀬戸の焼きなべの中で、まだぐつぐついっているのを、テーブルまで運んでくる。・・・
スープの上皮はグラタンになっているから、上からではスープは見えない。だからこれは、フォークとスプーンを使って食べる。まずフォークで上皮のパンとチーズのグラタンを食べる。パンについたとけたチーズは、まるでチューインガムのように糸を引く、それを食べながら下のスープを飲むというわけ。」
   
         石井好子 『巴里の空の下オムレツの匂いは流れる』

ううーん・・・。美味しそう。
石井好子さんは、1950年代、モンマルトルの「ナチュリスト」(自然主義者の意味)というバルでシャンソンを唄っていました。

唄う石井好子


食彩の一回目、「オムレツを焼こう」で、「巴里の空の下オムレツの匂いは流れる」冒頭を引用したのですが、石井さんは、この夏、亡くなられました。CDも聴いたことがありますが、クラシックの発声でシャンソンを歌っている感じなのがとっても新鮮。シャルル・トレネやイヴェット・ジローの紹介者、訳詞者でもありました。そしてカロにとっては魅力的な食彩エッセイの書き手でした。・・・・

石井好子さんは波乱に富んだ人生を送られた方です。お父さんは政治家で、立志伝中のひと。好子さんは、戦前、東京音楽学校で学び、(クラシック調シャンソンはそれでか・・・。)「砂糖王」と言われた富豪のおぼっちゃまと結婚。終戦後、旦那さまと別れ、単身渡米、後に渡仏。苦労の末、シャンソン歌手として認められます。当時、フランスでジャポネ(日本人)と言えば、フジタ(藤田嗣治、画家)、ハヤカワ(早川雪州、映画『戦場に架ける橋』の俳優)そして「ヨシコ」だったそう。

ノートルダムのてっぺん

ノートル・ダムのてっぺん


オニオングラタン(グラティネ)の作り方

材料 玉葱三個。約4人前。これが最低。少ないと炒める時に焦げやすい。バタ、チーズ、(パルメザンもチェダーもとろけるチーズもとろけないチーズもブロックチーズも粉チーズも、何でも試してみてください。料理にタブーはなし。)フランスパン(食パンでも応用可)。スープストック(個型スープも可)。

玉葱


1 玉葱は半分にしたあと薄切りに。泣きながらひたすら刻む。
フライパンは大小、小さい方は、あまり薄くないソースパンなど、二種類用意する。
2 大きなフライパンにオイルをとって、すぐに玉葱を全部いれる。最初は中火。初めは、時々ひっくり返すくらいで良いけれど、キツネ色になってきたら弱火にして、まんべんなく焦げ目がつくように手を動かす。
3 量が少なくなってきたら、小さなオナベに入れ変える。大きなフライパンは手早く洗ってしまう。ナベを変えたところでバタを大匙一杯加える。弱火。焦げそうになったら火からはずして、ゆっくり、こげ茶色になるまで炒める。最初のフライパンから30分位はかかります。飴色を通り越して「たわし」色になったら火から下ろす。この段階ではあまり美味しそうではないけれど、気にしないこと。「オニオングラタンの素」は、冷凍できるので、たくさんつくっておけば、いつでも食べられます。

いためオニオン

4 お鍋に一人分大匙山盛り一杯の「オニオングラタンの素」をいれ、一人分カップ一杯の水と個型スープの素をいれて沸かす。塩コショウは控えめに、殆ど要らないくらい。(あとでチーズの塩気が加わるので)。もちろん、市販のとりがらスープでもおいしくできますが、こちらにもお塩は軽めに。スープを温めているうちに、パンを1センチくらいの厚みに切ってトーストしておく。
5 グラタン皿に熱々のスープを盛り、スープが見えなくなるくらいぎっしりパンを浮かせる。さらにパルメザン(種類なんでも)チーズを一人につき大匙1乗せる。オーブンを上火にして、こんがりと焼き色をつける。スープはもう熱いから、短時間、焦げ目をつけるだけで良い。

取り出す時は気をつけて。とってもとっても熱いから。食べる時も気をつけて、舌を火傷しないように。

石井好子さんの本を片手に、初めてグラティネを作った時のことを思い出す。そのころ、(結構昔)カロはフランスで貧乏な学生生活を送っていました。カフェで食べたこともあったけれど、脂っこかった。自炊の献立は、グラティネと茹卵、ファンタシトロン(レモン味のファンタ、フランス人御用達)だったっけ・・・・。いまでもオニオングラタンと半熟卵のコンビには郷愁がつのります。

半熟卵


ついでに『巴里の空の下・・』から、スペイン風半熟卵のいただき方。

「日本でも封切られた『モナリザの失踪』という映画の、あの主役女優トル―デ・フォン・モロは、いまド・リボン夫人となって、パリに住んでいる。ご主人のド・リボンはパリの劇場の持ち主で南米生まれのひとだが、私はその二人と親しくしていて、ときどき食事によばれた。

モナリザ

コックはスペイン人なので、よく変ったお料理が出たが、そのひとつで名前は知らない、半熟卵がカラごと、エッグカップに入って、お皿の上に乗っていた。卵の先は、黄味が見えるくらいのところまでカラごと切ってあって、別のお皿には、食パンのミミを油であげたのが数本配くばられた。
ミミを、つまんで、半熟卵の黄味とおぼしきあたりに塩を少々ふり、ブスッとつきさすと、ぬらっと黄味があふれるように出てきてパンにくっつく。それをかじって食べる。・・・とても美味しかったことが忘れられない。食べた時、窓ごしにセーヌ河が見えていたことまで、こうしていても目に浮かぶ。」

パリの冬


こんがり焼いたバタートーストに半熟卵を崩して乗せ、軽くお塩を振っても味は同じ。お醬油一滴。こってりさせたかったらオリーヴオイルも一滴。寒い朝に。

卵と麺麭


金屏に夢見て遊ぶ師走かな 文考
saison de karo 21

クリスマス羊の役をもらひたる 西村和子 

生誕祭
 

人間は、天使でも、獣でもない。そして、不幸なことには、天使の真似をしようとおもうと、獣になってしまう。

                        パスカル 『パンセ』

クリスマスの朝

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