saison de karo 18

露の世は露の世ながらさりながら 小林一茶 


露の玉2


昔男ありけり。女のえ得まじかりけるを、年を経てよばひわたりけるを、からうじて盗み出でて、いと暗きに来けり。芥川といふ川を率て行きければ、草の上に置きたりける露を、
「かれはなにぞ。」となむ、男に問ひける。
ゆくさき多く、夜もふけにければ、鬼ある所とも知らで、神さへいといみじう鳴り、雨もいたう降りければ、あばらなる蔵に、女をば奥におし入れて、男、弓やなぐひを負ひて戸口に居り。はや夜も明けなむと思ひつつゐたりけるに、
鬼、はや一口に食ひてけり。
「あなや。」といひけれど、神鳴る騒ぎにえ聞かざりけり。やうやう夜も明けゆくに、見れば、率て来し女もなし。足ずりをして泣けどもかひなし。

白玉かなにぞと人の問ひしとき露と答へて消えなましものを


昔、ある男が、長く思い続けた女をついに盗み出した。抱きかかえて夜道をゆく途中、芥川の川辺にさしかかった。岸の草に置く露が、夜目にもきらきらと光るのを見て、外に出たこともなかった女は、めずらしそうに、
「あれは、なあに。」と問うのだった。

伊勢物語

道は遠く、夜は更けてゆくばかり。雷が鳴り、雨も降ってくる。そのあたりには鬼が出ることも知らず、人気のない蔵にゆきあたったのを幸い、女を中に隠して、男は弓を持ち、矢入れを背負って入り口を守った。
一刻も早く夜の明けるようにと念じながら・・・。ところが、蔵の中に潜んでいた鬼は、女を一口に喰ってしまった。女は、ただひと声、
「あ・・。」か細く声をあげたが、雷鳴にまぎれて、男の耳に届くことはなかった。
朝、女の姿はどこにもなかった。
男は泣き悲しみ、こう詠んだ。

あれはなに、とお前が聞いた時、露だよと答え、いっそ露のように一緒に消えてしまえばよかった・・・。

                 『伊勢物語』 カロ訳

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Goulue de karo カロ食彩8 

まつたけを焼こう。

松茸サイズ

眼をとじて、香に酔おう。まつたけは高貴な香り。他を寄せ付けない至福の香り。ちょっぴり傲慢な香り。
まつたけに限らず、きのこというものは、「お腹を満たす」以外の何ものか、味覚外の味覚を与えてくれます。香りと歯ごたえは混然と口腔を刺激して・・・。

天才はきのこがお好き。・・・

2003年、かのポアンカレ予想が解決をみました。ポアンカレ予想とは、1904年、フランスの数学者アンリ・ポアンカレによって、「宇宙とはどんなカタチをしているか」についてたてられた仮説のことです。曰く

単連結な3次元閉多様体は3次元球面S3に同相である。

という仮定によって、宇宙の形態は限定することができる。・・・・?
乏しい理解で申し上げれば、そもそも宇宙とはどんなカタチをしているのか、様々な消去法で論じていった最後には、「宇宙とはいくつかのパターンの形象の何れかにあてはまる。」(??)という結論になる・・・らしい。どんな説明(サルでも解る式の)を読んでみてもいまひとつ解らないのですが。多分そこに辿り着くまでの基本的知識が欠如しているせいなのね。(ここだけはしっかりと把握。)

ポアンカレ









  トポロジーの見方による「宇宙の形」の可能性


然しながら、予想はあくまで予想であり、ポアンカレ予想がたてられて以来、多くの数学者たちが、ほぼ一世紀にわたって実践理論として証明するための試みを続けてきました。一部は証明されていたらしいのですが、(この一部というのも、さまざまあり、どれもよく解らず・・・)ポアンカレの仮説に100年ぶりに抜本的な証明をあたえるという偉業を成し遂げたのが、ロシアの数学者グレゴリー・ペレルマン(1966年生まれ)であったということらしいのです。らしい、らしいとしか書けませんが、私は2004から2005年頃、盛んにメディアに映し出されていた彼の風貌(それは、ポアンカレ予想の解明者以外の何者でもない、といった風貌)に、すっかり参って(?)しまいました。といっても、髭の分量が多すぎて、顔立ちは判然としませんが・・・。

天才は髭が濃い


ペレルマン氏は数学教師であった母親から英才教育を受け、早くからその天才的な素養を知られていました。数学ばかりでなく、物理学にも抜群の冴えを見せていたとか・・・。

ポアンカレ予想を解き明かすためには、高度な数学技術と飛躍的な発想が必要。ところが、証明のために彼が用いたのは、物理学の知識と方法であったので、数学者たちは、(高度な数学者といえども高度な物理学は解らないものなのか、この問いを解くために、もう百年かかりそう。)最初、彼の説明に全くついていけなかったという話です。

証明論文が認められ、彼はフィールズ賞に輝きます。(非常に権威のある数学のノーベル賞みたいなものだそうです。)しかし、本人は授賞式にも現れず賞は辞退。

数学者はその時点で無職。お母さんの年金で暮らしているという、「世界で一番頭の良いパラサイト」状態。食材の足しと、森歩きの趣味もかねた「きのこ狩り」が日課だそうです。
勿論独身。・・・深い森の中、しっとりと湿り気を含んだ枯葉。蛍光色を帯びて伸びてくるきのこたち。まさに太陽系の神秘。天才は何を思ってきのこを摘みとるのでしょうか。

宇宙空間に思いをはせつつ、凡人はまつたけを焼きましょう。

焼きまつたけ


まつたけの出身地を問うべからず。

国産のまつたけでないと「香り」がしないという方もありますネ。そうかもしれません。しかし、カロは海外生まれのまつたけ(主に台湾産。値段、まだしも手頃。)も楽しく、美味しく料理いたします。国籍なんて、何万光年の距離に比べれば何のこともありません。いずれにしても、生まれは宇宙のどこかなのです。
ところが・・・この悠久のまつたけを料理するにあたっては、一秒を争う機敏さと、計算では解き明かすことのできない「勘」が要求されるのですから、世の中、いえ、宇宙の中というものは解りません。

一触即発、・・・カロ風まつたけの晩餐。別称ポアンカレ。

材料 まつたけ大きいのが一本か二本(大抵はもらいもの)手にはいったといたしましょう。大きめに手で裂きます。3分の1ずつ、焼きまつたけとお吸い物、まつたけごはん用に分ける。お米、お豆腐、スダチ(レモン可)。3人分として・・。

1 お米カップ2杯をといでおく。水はこころもち少なめ。

2 お吸い物の準備。お鍋にカップ2ほどのお湯を沸かして、片手ひとつかみの削りがつおを投入。昆布はいれないほうが味はキッパリ。グラッときたら火を止めて濾す。かつおぶしは捨てないで煮物に転用。
一番だしに塩と少しの砂糖、お醬油、味の素をいれる。こころゆくまで味見して、この味でいこう、となったら、強火にかけ、千切ったお吸い物の分のまつたけ(最初のまつたけの3分の1をさらに一口分に千切るということね。)をいれて、20秒。すぐに火を消して、スタンバイ。
お豆腐を3人分で半丁用意しておく。(あまり多いと味が薄まるので、ひとり2,3片。)

3 まつたけご飯開始。
カロ風まつたけご飯は「炊き込み」ません。乗せるだけ。
といでおいたお米を普通に炊く。むらしにかかったところで・・・。
まつたけ(ご飯の分、3分の1)をアルミフォイルに乗せてオーブントースターに入れ、出力強で30秒。取り出して、お醬油小匙1をかける。そのままご飯の上へ。もう一度お釜にフタをする。ご飯に香りを封じ込めます。

4 焼きまつたけスタート。
最後に残った3分の1のまつたけを人数分に裂き、アルミフォイルに乗せて、オーブントースターへ入れる。1分。

閑話休題
まつたけの「裂き方」は、大きくても小さくても良いのですが、あまり細かくすると「まつたけ感」が失われてしまうので気をつけて。一番大きくするのは焼きまつたけ、次がご飯、小さめがお澄まし、とメリハリをつけると食感も微妙に変わって良いです。

まつたけのお吸い物


5 ここでお吸い物のお鍋にお豆腐をいれて温める。その間に・・・

6 ご飯のお釜のフタを取って、お皿にまつたけだけ取り出し、ご飯にお塩小匙半分ほどふっておしゃもじで混ぜる。小さな器にご飯をほどよく盛り、上にまつたけをふんわりと乗せる。香りが立つ・・・。

7 焼きまつたけをトースターから出して、お皿に乗せる。スダチを添える。

8 沸いてきたお吸い物をお椀に盛る。三つ葉は入れない。香りが衝突してしまうので。

この手順でしっかりやりとげると、食卓に、焼きまつたけ、まつたけご飯、まつたけのお吸い物が同時に並ぶ筈・・・。

汗を拭いて焼きまつたけにスダチかレモンをギュッと絞る。

まつたけご飯シャンパン

シャンパンが合う。ワインでも日本酒でも。(と言ってもカロは日本酒の知識なし。聞いた話では、辛口の日本酒とまつたけはとても合うそうです。)せっかくのまつたけですからお好きなリカ―で。

ご飯もお吸い物も、量を多くすると、まつたけの味がぼやける。少ないと、なおさら美味しく感じます。でも満腹にはなりませんね・・・。ただ、ここまでの緊張感溢れる三位一体調理で、すでに疲労困憊、まつたけを味わうとがっくり気が緩む。お腹塞ぎにさつまいものふかしたのとか、もやしの炒めものに卵をジャーッと落としたのとか、それも面倒になってしまって、宅配のピッツァを注文する。とかく竜頭蛇尾になりがちなカロの「まつたけの晩餐」・・・。

ふかしいも

宇宙がどんなかたちか、みんなはっきりとは知らないけれど、広いことは間違いなし。そのひろい宇宙で一本のまつたけ、一片のお芋と出会えたことに感謝。

松茸や知らぬ木の葉のへばりつく 松尾芭蕉

曜変天目茶碗

ここにも宇宙


saison de karo 17

葡萄吸う腰から下に夕日浴び 徳弘純

葡萄に陽
 

ジムというその子の持っている絵具は舶来の上等のもので、軽い木の箱のなかに、十二色の絵具が、小さな墨のように四角な形に固められて、二列にならんでいました。どの色も美しかったが、とりわけて藍と洋紅はびっくりするほど美しいものでした。・・・
秋だったのでしょう。葡萄の実が熟していたのですから。

クレパス1

昼ご飯がすむとほかの子供達は、活発に運動場に出て走り回って遊び始めましたが、ぼくだけはなおさらその日は変に心がしずんで、一人だけ教場にはいっていました。・・・ぼくの目はときどきジムの卓の方に走りました。

ぼくは急に頭が氷のように冷たくなるのを気味悪く思いながら、ふらふらとジムの卓の所へ行って、半分夢のようにそこのふたをあけてみました。・・・
藍と洋紅の二色を取り上げるが早いか、ポケットのなかに押し込みました。
・・・・
「君はジムの絵具を持っているだろう。」
「そんなもの、ぼく持ってやしない。」
「休みの時間に教場にいたのは君だけじゃないか。」・・・
ひとりがいきなりぼくのポケットに手をさしこもうとしました。…マーブル玉や鉛のメンコなどといっしょに、ふたつの絵具のかたまりがつかみ出されてしまいました。・・・

クレパス3

部屋の戸をジムがノックしました。中からやさしく、「おはいり」という先生の声が聞こえました。・・・・
何か書き物をしていた先生は、どやどやと入ってきたぼくたちを見るとすこしおどろいたようでした。が、頚のところでぷっつりと切った髪の毛を右の手でなであげながら、いつものとおりのやさしい顔をこちらに向けて、ちょっと首をかしげただけで、なんの御用というふうをなさいました。・・・

先生は、しばらくぼくを見つめていましたが、やがて生徒たちに向かって静かに「もういってもようござんす。」といって、みんなをかえしてしまわれました。
・・・先生はすこしの間なんとも言わずに、ぼくのほうも向かずに、自分の手の爪を見つめていました。

クレパス2

「絵具はもう返しましたか。」
ぼくはかえしたことをしっかり先生に知ってもらいたいので深々とうなずいて見せました。
「あなたは自分のしたことがいやなことだったと思っていますか。」
ぼくはもうたまりませんでした。ぶるぶるとふるえてしかたがないくちびるを、かみしめてもかみしめても泣き声が出て、目からは涙がむやみに流れてくるのです。・・・
「あなたはもう泣くんじゃない。よくわかったらそれでいいから泣くのを止めましょう。ね。・・・」

葡萄アップ

その時また勉強の鐘が鳴ったので、机の上の書物を取り上げて、ぼくの方を見ていられましたが、二階の窓まで高く這いあがった葡萄蔓から、一房の西洋葡萄をもぎとって、しくしくと泣き続けていたぼくのひざの上にそれをおいて、静かに部屋を出ていきなさいました。

                       有島武郎「一房の葡萄」

埃及の葡萄