saison de karo 16

           丈高きことがさびしく花紫苑 遠藤梧逸

紫苑


     なんのお祭りなのだろう・・・。
     家々の戸口に国旗が立っている。国旗の出ていない家のほうが少ない。

     わたしの家と道路ひとつ距てた小学校の国旗掲揚塔にも、大きな旗があがっている。

     街は賑やかであった。高い百貨店の影の道路に、風船売りや花屋の車がたくさんならんでいた。

     百日草、矢車草、金仙花、紫苑、雛菊。菊がいちばん多い。・・・ようやく私は思い当った。お彼岸なのだ。
     今日は死者たちのお祭りらしい。・・・

     
     わたしのみあげている空には、たくさんの青い風船のかわりに、
     石灰色の薄い鰯雲が、夥しく南の方から広がりだしてきた。
     そしてわたしの耳には、
     旗の鳴る音のかわりに雑草と、楢の葉のざわめきが聞こえる。
                                       
                                      原田康子 『挽歌』

               矢車草

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Goulue de karo  カロ食彩7

小鰯を揚げよう。

いわしの群れ

「岩国の茶粥というのは、何のことはありません。粥にする米の中に、香ばしく煎った番茶を、布で作った袋の中に入れて、粥にする米と一緒に、最初から入れて炊く粥のことで、また、岩国の藷粥と言いますのも、これも何のことはありません。粥にする米の中に、最初から甘藷を入れて炊く粥のことだったのです。
私の記憶によりますと、朝晩食べる粥にまで、こんなことをして、量を増やさなければならないほど、私の故郷の岩国が、貧しかった訳ではないのですが、ともかく、私たちは子供の頃から、こう言う淡泊なものだけを食べて育ったものですから、食べ物に対しては、最初から、しつっこい好みを持っていなかったのかも知れない、と思うのです。せいぜい、鰯の天ぷらくらいのものであったか、と思うのです。
おや、鰯はしつっこい肴ではないか、と仰るのですか。それも、天ぷらにしたりなどしては、なおさら、しつっこくなるのではないか、と仰るのですか。」
                              宇野千代 『私の作ったお惣菜』

鰯は秋の季語ですが、秋に回遊してくるのは太平洋沿岸だけ。日本海側では春から夏にかけて、海流に乗ってのぼってくるそうです。

ちいさな鰯は夏が食べごろ。というよりも東京あたりでは、なんだか一年中魚屋さんにあるみたい。いつ、どこでも近海域に網を打てば、かならず引っかかってくる魚なのか。・・・この「こいわし」クン、なかなかにいじらしい食材です。

小鰯は何故か売れ残る。

小鰯は普段着の魚。お魚屋さんや、スーパーでパックされて売っています。人差し指大の鰯20尾くらいで、もともと300円程のお値段。売れ残って、1パック100円になっていることも。売れない訳、それは手間がかかるからです。小鰯料理は、あの、にゅるにゅるとした、小さな鰯を、手で何十尾もさばかなければなりません。この作業、正直言って、あんまり気持ちよくない。とはいえ、丸のまま料理するのは「えぐい」。くさみも残ります。

小鰯料理の鉄則。頭とお腹を取りましょう。宇野千代さんによれば、実に簡単。

「とにかく、私は鰯が大好きなのです。私が鰯が大好きだと言いますと、『あなたでも、背の青い肴を食べるのですか。』と、きまって人が言いました。そんな時、私は、平気でこう答えました。『ええ、食べますよ。』
まず、手で鰯の腹を開きます。包丁は使いません。鰯の頭をちょんと毟り、指で腹を割いて、はらわたを出してから、よく水洗いをするのです。」
                                  『私の作ったお惣菜』

小鰯の内臓を取っている時、いつも「命の小ささ」を感じます。この1尾1尾が、かつて命を持ち、大海原を泳ぎまわっていたのだなあと思うと、私の命、誰の命も本当に一瞬、小さいなあ、と思う。
鰯の首(?)のところに爪をたてて頭をちぎる。ちぎれた部分から縦に体をふたつに割いて、背骨と内臓をとる。心臓は爪の先ほどの珊瑚色、美しい。書いていると凄い。凄いことをしていたんだわ、私・・・。
流し台に、ぴったりお腹をくっつけて数十の命の後始末が終わると、小さなボールに、うっすら紅くひかる鰯の身が数十片光っている。さあ、今日はこれをフライにしちゃうぞ。
宇野千代さんの「天ぷら」は、卵の黄身と白身を分けて白身の方を泡立てる・・・。所謂ピカタ風。カロはもっぱらフライ党です。

カロ風いわしのフライ

生姜をすりおろして裂いた鰯にタップリまぶしておく。
新聞紙を調理台にひろげます。
左に小麦粉を一山、右にパン粉を一山。真ん中に卵を割りこんだボール、小麦粉の山に鰯を一気にまぶす。次々卵に投入。1尾ずつパン粉につける。左から右へ、流れるようなフライ準備作業。
もう一品、玉葱をリングに切って、粉、卵、パン粉をつけると、あっと言う間に2種類の下ごしらえ完了。パン粉に粉チーズを混ぜておくと、イタリアンな風味になりますが、ちょっと焦げやすい。

新聞紙のままレンジまわりへ持ってゆく。
深めのフライパンか鍋にオイルを熱する。中火(鰯をいれたら、ウワッというくらい)、色づいてきたら弱火。鰯も玉葱も3分位で火が通ります。
新しい新聞紙に取り出して油を切る。新聞紙は、分別して捨てましょう。

3いわしのフライ

お皿に鰯と玉葱のフライを山と盛る。ウスターソースとケチャップと白ワインを混ぜたソース、お醤油を出汁とお酢でのばしたソース、レモンを沢山添える。

オニオンリング

鰯は旨い。玉葱は甘い。レモンは芳しい。

小鰯のフライに合うのはビールかスパークリングワイン。魚とお酒、ぱちぱちはねる感じが口のなかでコラボするからか。

スパークリングワイン


ちいさなフライパンにオリーブオイルを半カップ、鷹の爪を一片いれて「煙のでてくるまで」熱し、茹でたてのスパゲティにザッとかけた「スパゲティ・サンプルマン」と一緒に。スパゲティを食べる時、青菜とパルメザンチーズを振る。サラダも玉葱(うすく切ってお塩をかけ、しんなりしたら、よく絞る。)とレタス。スパゲティにも、サラダにも、缶詰か、びん詰のキャビアを乗せるとぐっと引き立つ・・・。

スパゲティ・オ・キャビア

ごはんと一緒が良い時は、ちいさなちいさなおむすび。二口で食べられる位に小さくお塩でにぎり、上にお漬物や茗荷の細切り、キャビアなど乗せて、盛り合わせた一皿。おみおつけは焼き葱。

古漬けおむすび


ちいさな鰯の命は、こうして、あとかたもなくなる。残ったのは満腹のカロとカロの夫、マークン。(初登場)
私達もいつか、あとかたもなくなるのね。
そうだよ。・・・・マークン動ぜず。

ほの明かき鰯の肉を裂きすすむ 安倍真理子
saison de karo 15
 

涼しさや人がひとりになるゆふべ 今井杏太郎 


山のゆうぐれ



君待つと わが恋ひ居れば わが屋戸の

すだれ動かし 秋の風吹く   
    額田王 万葉集巻四―四八八

あなたを待ってひとり居れば、夕暮れのいたずらな風が簾をゆらす。あっと思ってふり返る。誰もいない・・・。

風をだに 恋ふるはともし 風をだに

来むとし待たば 何か嘆かむ      
鏡王女 巻四―四八九

風を恋人と思うことができるなんて、羨ましいこと。恋人のように風を待っていられたら、もう嘆くこともない・・・。


簾