カロ歳時記
                   saison de karo 110


                              ひきこもる少女よ雪の匂いして 高橋修宏


                                                 ゆき
                    
           

                                         彼女は言った まっていって

                                               どうぞって

                                                  でも部屋には椅子がないんだ

                                                     ラグの上にをおろして

                                                        一緒にを飲んだんだ

                                           ひきこもり2   

                                          
                                               ひきこもり3

                                          
              彼女が先にってしまったので

                    ぼくはバスルームでたのさ

                             朝 小鳥はもうんでいって

                                   部屋には誰もいなかった

                                                      ビートルズ 『ノルウェイの




                            dufy blue mozart
 
                                          

 

                   わたしね、プロのになるつもりだったの。

                      コンクールで優勝したこともあるし・・・。

                  まあ、一点曇りのないだったわね。

                    でも変なことが起こって・・・・。

                                                 村上春樹  『ノルウェイの


                                           ノラ


                         ピアノ5


                     音大の四年の時ね。

                        突然左のが動かなくなっちゃったの。

                           どうして動かないのかわからないんだけど、とにかく全然動かないのよ。


                                             ゆび

                 
                  ずいぶんいろんな検査したんだけれど、よくわからないの。

                 だから的なものじゃないかって。


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               ノル3
                                                   

                                  当分れて暮らしなさいって言われたの。

                           『ノルウェイの


                     ピアノ3


                                         ノル1


                        で、しばらくすることにしたの。

       でも、だったわ。何をしても頭の中にのことしか浮かんでこないのよ。

                                                 ひきこもり

                                                 
           一生このままが動かないんじゃないだろうか?

              もしそうなったらこれからいったいどうやってきていけばいいんだろう?


                                            ピアノ1
                                                   
                                                                      
            私はね、四つの時からを始めて、そのことだけを考えて生きてきたのよ。

                  そんな風にして生きてきた女の子からをとってごらんなさいよ。

                      いったい何が残る?

                            そんなのってひどすぎると思わない?
                                        
                                                       『ノルウェイの


                                         ねこ カーテン
                                           

                                     ノル2

                 

                              ピアノ2



                         ローランサン4


                                                         ひきこもり1


   
               さん・・・・・。                 

           挫折の後にもは続いています。そこにもいろんなものがあるのですよ。

       も、も、機械仕掛けのも・・・・さえも・・・。

                               N・ミハルコフ  『機械仕掛けののための未完成のチェホフの戯曲』

                                                    ねこリーディングキャット2

                                                          
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     カロ歳時記

               saison de karo 109


                          山羊・羊絶壁の草喰いに来る 成井惠子


                                    スガン

           スガン5
                    
           

               ムッシュ・スガンは牝山羊のことでうまくいったためしがない。

               ある、山羊は綱を切って、の中へ逃げ去ってしまう。

               そうしてではが彼女たちを食べてしまうのである。



                                         03504_240x400.jpg


               
               やれやれダメだ。もう一匹も飼わないことだな・・・。

               人の良いムッシュ・スガンは言う。

               匹の牝山羊を同じような手でなくした後、彼はやっぱり匹目の山羊を買った。

                                                        ドーデ 『風車小屋便り』


                              やぎ1
                


               その山羊は、なんとしかったことだろう。

               目はしくて、蹄は黒くピカピカ、真白な毛はまるで雪のヴェールのよう。

               
               ムッシュ・スガンは、屋敷の中庭に、サンザシの垣根をめぐらした菜園をもっている。

               彼がこの新しいマドモワゼルをつないだのはここである。


                                            134396596390413217904_237018w.jpg


               地のいちばんきれいな場所に、一本の杭を打ち、

               綱をなるべく長くのばしてやった。

               山羊はとても満足そうに、喜んでを食んでいた。

               ムッシュ・スガンは安心した。

               だが、それは勘違いというものだった。


                         スガン1



               ある日、を眺めて牝山羊は考えた。

               あのいところに行ってみたいわ。

               こんな綱なんかないところで、ヒースの茂みをかけめぐるのは、

               どんなにしいことか・・・。


                                                 スガン3


                        スガン11



 
               杭を抜き綱を切り、彼女は屋敷をげ出した。

               どんどん登って、山腹の広々としたに着いた。

               思う存分飛び跳ねて、新鮮なは食べ放題。


                                スガン13


               がったりけだしたり、

               の頂きに上ったかと思うと、窪地の底に駆け降りる・・・。

               彼女には何にもいものがなかったのだ。
                

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               お昼ごろ、彼女はを食べている羚羊の群れに紛れ込んだ。

                     白い衣装をつけた者は、彼らにセンセーションを巻き起こした。


                                                   スガン9


               一番味の良いを与え、

               この羚羊のムッシュたちは、と彼女に色目を使った。

                                 スガン12                                      

                                                  スガン4


               そして、一匹の黒い毛並みの羚羊は、

               彼女と森の中で一時を過ごすさえ得たのである。


                                スガン8



                 スガン10
                                                  

               突然、が冷たくなった。

               山は色になる。夕暮れが来たのだ。

               の上から見下ろすと、野良は靄にかすんでいた。



               ウォー  ォー 

               振り返ると、ぴんと立った短いと、ぎらぎら光るが見えた。

               は赤いを火のようにぺろぺろ動かした。


                                    スガン02


               ははあ、ムッシュ・スガンのマドモワゼルだね。

               牝山羊はさっと身構えた。

               を殺せるなんて思ったわけじゃない。

               自分がどこまでえるか、そうとしたのである。

               細い脚の牝山羊は、なんと 十ぺんも、を退却させ、息を入れさせたのだ。

               それは一晩中続いた。


                     スガン00



                 ああ、せめてけまで持ちこたえさえすれば・・・・。

                      スガンさんの牝山羊はそう思った。

                      
                                  hosi_convert_20150103170706.jpg


ひとつ、またひとつとが消えていった。

               いは続いた。白々と一条の明りが地平線に現れ始めた。


                スガン03

               
               けだけを待って、すっかり血に染まった純白の毛皮にくるまって、

               彼女はれたのだった。

               ・・・・

               やっとが来た・・・。

                                              ドーデ  『風車小屋便り』


                                                         31VW2ZdSltL__SS200_.jpg
                            
                                                                  ・・・・・
                 
 

         カロ歳時記

                    saison de karo 108


                       ゆきふるといひしばかりの人しづか 室生犀星


                     雪6


          雪04



             信号所に汽車が止まった。

             向側の座席からが立って来て、島村の前のガラス窓を落した。

             の冷気が流れこんだ。

             は窓いっぱいに乗り出して、遠くへ叫ぶように、

             「駅長さあん、駅長さあん。」

             「駅長さん、私です。ご機嫌よろしゅうございます。」

             「ああ、さんじゃないか。お帰りかい。また寒くなったよ。」

             「弟が今度こちらに勤めさせていただいておりますのですってね。

              お世話さまですわ。・・・・

              ほんの子供ですから、駅長さんからよく教えてやっていただいて、

              よろしくお願いいたしますわ。」


                                                  川端康成 『


                                       雪02


               雪01
                                          

                    「駅長さん、弟をよく見てやって、お願いです。」

                         悲しいほどしい声であった。

                            高い響きのまま夜のから木魂して来そうだった。

 
                                雪7



                                                 雪9

                                          『』執筆の頃の川端康成  


                                雪03


                                                雪08

                                                         

                  の十時ごろだったろうか。

                  が廊下から大声に島村の名を呼んで、

                  ばたりと投げ込まれたように彼の部屋に入ってきた。

                  いきなり机に倒れかかると、その上のものをった手つきでつかみ散らして、

                  ごくごくを飲んだ。

                                                          
                                                        『


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                                       雪07

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                  この冬スキー場でなじみになった男達が夕方山を越えて来たのに出会い、

                  誘われるままに宿屋に寄ると、大騒ぎとなって、

                  飲まされてしまった、とのことだった。

                  「悪いから行ってくるわね。後でまた来るわ。」


                                  雪8



                  一時間ほどすると、また長い廊下にみだれた足音で、

                  あちこちに突きあたったり倒れたりして来るらしく、

                  「島村さあん、島村さあん。」

                  と、甲高くんだ。

                  「ああ、見えない。島村さあん。」

                  それはもうまぎれもなく女の裸のが自分の男を呼ぶであった。

                                                             『

                                                     
                                                雪11
              


                  川端康成の『』のふたりのヒロイン、駒子と葉子。

                     駒子は芸者、葉子はかたぎの少女です。

                        それぞれ別のシーンで大きなをあげるふたり。

                           どちらも必死な叫び声ですが、

                              の声はきよらか、の声は艶やかです。   カロ


                         雪0


                                                雪09

                                               


      カロ歳時記

              saison de karo 107


                             もう追うて行かれぬ金の林檎かな 柳川晋

                        りんご0                        

                 
          は、オーブンから出したばかりのを一切れ

          わたしにくれた。

                                                    アップルパイ000

                                アップルパイ1

                                                         アップル02

                                    アップルパイ05                                                           

          まだほんのりが立っている。

          の皮には、

          砂糖と香料・・・・・・が焼き込まれている。


                                           アップルパイ02


                                アップルパイ01                                                                                          サングラス1

                           明るいの10時、

                              は台所でをかけて、

                                 わたしがをフォークで切って口へ運び、

                                     ふうっと吹くのを見ている。


                              アップルパイ00



                                  アップルパイ2


                                である。


                 いちょう10

                                アップルパイ03


                    わたしはをフォークでさしながら自分に言い聞かせる。


                        アップルパイ7



                                 も聞かない方がいい。



                                          アップルパイ1


                                       アップルパイ2



          はあのしていると言うのだ。

                 それでいいではないか。

                       でいいではないか・・・・・。




                                                レイモンド・カーヴァー
                                
          
                                             アップルパイ6
                    りんご2

                           
 

      カロ歳時記

             saison de karo 106 


                      どんな闇を閉じ込めているのだ無花果    増田幽黙

                               
                   いちじく2



                                   いちじく01


                                                     
 
                      だ。

                         私はまず郵便物を局へ持って行き、

                            それから妻の好きなをいくつか八百屋で買い、

                               ついでに薬屋で、入りの風邪薬を買い、

                                  その帰りに、じつはこれはまだの許可を得てはいないが、

                                     本屋で『鉄腕』の最新号を買ってくるつもりでいる。

                                                              山川方夫 『最初の



                                   いちじく13



               いちじく11


                                             いちじく6



                              これがの仕事だ。

                                もちろん、これがだとはいえないにしても、

                                  だいたいこんなことが私のこの町での「」になる。



                            いちじく10



                              いちじく4



                  はまだ眠っている。

                  彼女が起きだし、彼女の一日の仕事に取りかかるのは、

                  たぶん、帰宅した私がを全部開けはなってからあとのことだ。

                  なんというくだらない一日の始まり、とは言うだろうか。



                          いちじく8




                        出しっぱなしのに横になって、

                        しばらくぼんやりとをしてから、

                        私はの寝ている部屋に行く。



                           いちじく03
 


                              おい、起きなよ。もう12時だよ。

                               ・・・・うーん。

                              あれはまだもうすこしるつもりでいるときの声だ。



                               いちじく1



                            はやっと起きたようだ。

                   しばらく眩しい日光のなかにいたせいか、目に色の暈がかかっている。

                   その中で、台所で働いているの姿が見える。



                                      いちじく9


                            彼女はガウンの上にを結んでいる。



                             いちじく3
                                    

 
                                 「どう?な日?」

                                 「うん、な日だ。」
                         

                                  いちじく7


                           いちじく1



                        「ねえ・・・・10月7日の午前9時46分よ。おぼえといて。」

                              を食べながらが言う。



                           いちじく02



                        「なんだいそれ。」

                        「がこの町を通るんだって。ねえ、見にいかない?国道まで。」

                        「・・・行くとするか・・・。」


       
                              いちじく0
 

                                私はを口に運んでいた。

                                                              『最初の


                                 itijiku.jpg
 
                                                  

                    は1965年、34才で交通事故死しました。

                    この小説は死の前年、1964年の秋を描いたもの。

                    でした。

                    10月、東京オリンピックが開催され、

                    作家の住んだ町、神奈川県二宮を

                    が通って行きました。

                                                    カロ


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