カロ歳時記

        saison de karo 100



                    竹林を揚羽はこともなく抜ける    宗田安正


                竹林1


                   竹林0
                 


                                            竹林11



                「喜助はん、あんたはん、あれ知っといやすか。」

                玉枝は床の間の横に置いてある箱を指さした。

                「どすねやわ。おさんがおつくりやしたもんどっせ。

                おさんが、うちにおくれやしたどっせ。」

                喜助のガラス箱をみている目が釘付けになった。

                「・・・もう十年になりますかいなあ、喜助はん、あんたはんはまださいころやった。

                おさんはうちを可愛がってくれはったんどっせ。

                あのおさんをわざわざつくっとくれやしたんどすがな。」

                                                          水上勉  『越前竹人形』


                           竹林6



                喜助はガラス箱のふたを開けた。

                一尺くらいもありそうなそのを手にとってみた。

                見事な細工と言えた。
 
                江戸時代のであろうか。

                うしろへ髷をつきだしたような髪型に、蒔絵の木櫛、衣服は帷子を模したものである。

                鹿子や柄地がの皮の模様によってつくられている。

                前で結んだ大きなも、すべての皮でつくられてあった。




                   竹林5

                                         

                「おさんがな、うちにくれるちゅうて、わざわざここまでもってきてくれはりましたんえ。」

                       喜助は、のどの部分にもの精根がこめられているような気がしてがつまった。



                            竹林8



                   山裾のの梢にさみどりのが吹き出している一日のことである。
                                    
                    小屋にこもっての糸鋸をいっしんに使っている喜助の耳へ、人の訪れる気配がした。
                         
                          「ごめんやす。」

                             喜助は膝がしらの塵を払って、急いで戸を開けに立った。

                         戸口に玉枝が立っていた。


                                            竹林13




                         ・・・・・・母屋の座敷に通すと、縁先の戸を開けた。

                         仏壇にをともした。


                             竹林4


                         「喜助さん、こっちのお位牌はおさんのどすか。」

                         「へえ、そうどす、おはんどすねや。」

                         「このおさんのお顔おぼえておいやすか。」

                         「知りまへん。三つの時に死なはったんやさかい・・・。」

                         玉枝はん、あんたはおはんどないしやはりましたんや。」

                         「・・・もう死なはりましたんえ。」

                         「おさんは。」

                         「知りまへん。・・・あてはおさんの顔を知らしまへんのえ・・・。」



                           竹林15



                          玉枝は喜助の出した茶を飲んでから、母屋を出た。

                          の藪をくぐって、丘の上の喜左衛門の墓に詣でた。



                                 竹林10

                                                 

                          
                          墓前にはの筒に深紅の椿の花が活けてある。

                      「きれいなどすなあ。」

                      「お父つぁんが好きどしたんや。藪のはしに四、五本ぱらぱらに植わってますのんやけんど、

                      こんどここに植えかえよう思うてます。」

                      なんまんだぶ、なんまんだぶ・・・・

                      玉枝はいつまでもそうしてつぶやいていた。


                                               竹林9

                           


                          「こんどは、お父さんのお好きやった椿の木ィを

                          植えかえはるのんのお手伝いにきますわな。かましまへんか。」

                          喜助は嬉しくなった。

                          椿の木を植えかえるのは明けの頃である。

                          「明けの頃に植えかえますのや。そんなら、

                          玉枝さんは、またその頃に来とくれやすか。」

                          「きっとよせてもらいます。」                                                                                           
                                                          水上勉 『越前竹人形』


                   竹林12


                                                   竹林7
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  カロ歳時記

         saison de karo 99

                     

                               のみさしの茶の冷たさよ五月雨   高村光太郎


                                    貅先ー上€€縺ゅa・抵シ狙convert_20140626230504
                                                                
                          


                 長雨晴れ間なきころ、
    
                       内裏の御物忌さし続きて、

                           いとど長居さぶらひたまふを、

                              御息子の君たちただこの御宿直所の宮仕へを勤めたまふ。



                                                         源氏 あめ14
 
       
           長いの続く頃。

       帝が殿内に長くおこもりのことがあった。

         は帝に従って、内裏の自室につめておられた。

                          他のたちも、源氏の部屋に足しげく出入りする。

                                                          下手な訳 カロ


                        源氏 あめ2


        源氏 あめ3



      
                              しめやかなる宵の雨に、殿上にもをさをさ人少なに、
          
                                    御宿直所も例よりはのどやかなる心地するに、
           
                        大殿油近くて書どもなど見たまふ。
              
                近き御厨子なる色々の紙なる文どもを引き出でて、中将わりなくゆかしがれば、
                     
                      「さりぬべき、すこしは見せむ。かたはなるべきもこそ。」

                   許したまはねば、
              
                      「そのうちとけてかたはらいたしと思されむこそゆかしけれ。」・・・


                                                              源氏 あめ16



                しずかにの降る、御殿には人も少なく、

                        日頃にくらべて落ち着いた心持になる。

                           灯火近く、と無二の親友のは、仲良く本など読んでおられる。

                            本棚には、たちから貰われたも仕舞われていた。

                               しい色とりどりの紙にしたためられた手紙を見つけ出したは、

                                     ぜひ読ませてくれるようにせがんだ。  

                                         
                                                                源氏 あめ0
                                            

                                               貅先ー柔convert_20140626231411



                        は、

                       「何でもないのは読んでもいいけれど・・・。見苦しいのもあるし・・・。」

                               と仰るが、は聞かない。

                            「その、見苦しいのこそ見せていただきたいのですよ。」

                                         と、なことを言って読んでしまう。



                                   源氏 あめ19


                                                                                                     源氏 あめ101

                             その頃、源氏は生涯の伴侶となるに出会う・・・・。



                          片端づつ見るに、「かくさまざまなる物どもこそはべりけれ」とて、
 
                              心あてに「それか、かれか」など問ふなかに、言ひ当つるもあり、
 
                          もて離れたることをも思ひ寄せて疑ふも、
 
                               をかしと思せど、言少なにてとかく紛らはしつつ、とり隠したまひつ。


                          
                               源氏 あめ12



                       「ふうむ・・・。いろんなのがありますねー。」

                           は、少し読んでは、一体誰からの文であるのか見当をつけようとする。

                             なかには、
                       
                          「これは、あの方からのですネ・・・。」

                  と言いあてられてしまうこともあり、               
                      
                           ヒヤリとしたいに紛らして、を取り返しておしまいになる。


                                                                    


                                                 源氏 あめ4
   
               


             長い「」の中でも、最も知られた逸話のひとつ「」は、

              梅雨の宵、つれづれなるたちの恋文談義の場面から始まります。

        帝の御こもりに従って内裏に控え、つまりなんとも閑な青年貴族たちが

                    源氏の部屋にあつまって、

                ああでもない、こうでもないと喋りあうのは、

                  政治向きの話とはまったく無関係な「」論。

                          彼等の体験的女性談は、面白くはありますが、

                     やや(かなり)セクハラ方向に・・・・。
 
                           時節がら、とてもこれ以上書けません・・・。      カロ  


                                                          
                                                        源氏 あめ100

              書斎でくつろぐサン  

                                             
   カロ歳時記  

      saison de karo 98


                      豆腐屋の笛で夕餉にする 種田山頭火

                                                   とうふ1



                     橋場の屋が、今朝とどけてくれたと油揚げを、

                        細く切ってへ入れ、小さな火鉢にかけた。

                           彦次郎が何よりの好物のであった。

                              を台所のかまどへかけておいてから、

                                 彦次郎は焼海苔を飲み始めた。

                                    の冷えに、はことにうまい。


                                                 池波正太郎  『梅雨の


 
               あめ2
                          


                       私が書いた短編小説で『』というのがある。

                      いまだに、「はよかった。」と言ってくれる人たちが多い。

                          主人公は三十七、八歳の「殺し屋」であるが、こういうときは私も、

                      いたらぬながら 「殺し屋」になりきって書く。

                           殺し屋なぞは、もっともむずかしく、しい。

                        この主人公は浅草のはずれの塩入土手の畑の中のに住んでいて、

                           「ふさ楊枝」をつくっている。この商売が彼の「かくれ蓑」なのだ。

                             にひっそりと暮らしていて、だから三食の支度も自分でするし、

                         また庖丁をとるのを楽しみにしている男だ。

                                                            池波正太郎  『の情景』


                                                 あめ5


                                                                
あめ11
                           
    

                           あめ4


                        池波正太郎の短編『』は食通作家ならではの時代小説。

                            作家お気に入りの作品だったらしく、元祖グルメ本的な著書『の情景』にも

                                           おへのこだわりと共に書き込まれています。


                                                                   雨3
                                                                        

                                     とうふ5

                                                     種田山頭火
                       

                一方のは、おを愛しおに飲まれ・・・。

            大地主の息子でしたが、父母の不和、母の自死など、不幸の連鎖、お酒の不始末が追い打ちをかけます。
                     
                           やがてし、の末、ひとりで亡くなります。

                          「豆腐屋」の句はお寺を転々としていた頃の作。

                           没後数十年、起こった山頭火ブーム。


                                   あめ8





                          の句は、俳句の世界では実はあまり評価されていません。

                          彼の句は的で、内的しさに欠くという見方が大勢です。

                              相対的には確かにそうですが・・・。

                        彼は本当にい人でした。

                            でも、そのさが、句と私たちとを近付けてくれるのです。


                             みんなやっぱりき。

                                                             カロ


                           とうふ6

                                        山頭火 姿


                                      あめ7




                 うどん供へて、母よ、わたくしもいただきまする  山頭火


                            とうふ3



                    、日本人のソウルフードは梅雨どき、体調をくずしやすい頃は大活躍。



                            あめ6



                    に殺し屋の彦次郎は別の男と争い、

                     却って殺されてしまうのだが、

                   その死体を発見するのが、

                    彦次郎にをとどけにくる豆腐屋になってくる。

                       ならざるを得ないように、そこへペンが走って行くのである。

                                              池波正太郎  『の情景』



              彦次郎は右手に短刀をつかんだまま倒れていた。

                   家の門口の々と茂ったの木の下を

                       屋が悲鳴をあげて走り去っていった。

                                                  『の湯豆腐』
                          




                     とうふ4

                                  むかしのおやさん。デリバリーだった・・・。


                                         雨花
                      



              
  

   カロ歳時記

         saoson de karo97


                                    濹東の女思ひぬ花菖蒲     加藤三七子

                               永井5


                                                                            墨東奇譚6

  
                    
                               永井2



               郵便箱の立っている路地口の煙草屋で、

                  を買い、

                    のつりを待っていた時である。


                                                    永井荷風    『


            永井3



                         永井7


                     突然、「ってくるよ。」

                          と叫びながら、白い上っ張りを着た男が、

                               向こう側のおでん屋らしいのかげに駆け込むのを見た。
 

                                                濹東奇譚5



               吹き落ちるに、

               紙くずとごみがのように道の上を走って行く。


                                                      『


                               濹東奇譚4

                                     


           は多年の習慣で、を持たずに門を出ることは滅多にない。



                            永井4


                                                          永井荷風1

           先生おでかけ

                                                                         
                             その日も無論とだけは手にしていたから、さして驚きもせず、

                                   静かに広げるの下から、空と町のさまとを見ながら歩きかけると、

                             いきなり後方から、

                                 「、そこまで入れてってよ。」

                                  と言いさま、

                                    の下に真白な首を突っ込んだがある。



                                                                 濹東奇譚8

                          
               油の匂で結ったばかりと知られる大きな潰島田には長目に切った糸をかけている。

                      は今方通りがかりに硝子戸を開け放した女髪結いの店のあった事を思い出した。


                                         コピー~1
                                            


               吹き荒れるとに、結いたての髷にかけた糸の乱れるのが、

                   いたいたしく見えたので、を差し出して、

                 「俺は洋服だからかまわない。」


                         濹東綺譚2

 
                 「じゃ、よくって。すぐ、そこ。」

                         の柄につかまり、

                                  片手にの裾を思うさままくりあげた。


                                               『


                                              濹東綺譚7

永井8


              

                 『』は永井荷風の作品中、もっとも愛されているです。
                          
                     通り雨の中、ヒロインとの出会いの場。


                    荷風の描く女性はほとんどが、

                          当時の言葉でいう給、り子、そして婦・・・。



         
                         濹東綺譚3

                           荷風先生と浅草のり子のミナサン 

            

                  現代とは世相もモラルも違うは、

                     あまり読まれなくなりましたが・・・・。

                        その湿った筆致は全文細かいが降っているよう・・・・。

                           とののような恋は荷風の「も持たない」人生を、

                             ほんの一時通り過ぎ、

                                    しい物語のだけが残ります。

                                                                             カロ



                            墨東奇譚1


                                                                                                                              かふう
                   
  カロ歳時記
       saison de karo 96


                  母の日の少年東奔西走す   長谷部朝子


                              母3


                                          ロレータ・ラックス1


               ぼくはひとりでへ行った

                    り空にがひらひら飛んでいる

               それを見ているの子がいる

                          ぽつねんとに座って


                                                   谷川俊太郎 『に会う』

                                                    
                                                         母5


                                        蝶
                                                      
                                                                        
                                                  
                  という感情はいつどこで生まれたのか

                        口をきかないの子のとなりに座って

                                ぼくは番っているを見つめる

                                             この子はぼくのかもしれない


                  母4


                                            母6
  
                            

                                           鹿6
    
               
                 まだもたどったことのない道が

                                    へと消えてゆく


                                                    蝶2


                                          母2

                                          ロレ―タ


          かすかなの音だけが

                                   ぼくをこのにつなぎとめる


                                      2014 tyuugoku


                                                     
                          
                     になる日にも

                           ぼくはきっとここにいる

                                することをおぼえ

                                    ぬことにさえよろこびを感じて


                                          谷川俊太郎  『に会う』


                                    三岸好太郎 雲の上を飛ぶ蝶