カロ歳時記

  saison de karo  90


                       立春や卵も立つと習いけり 中川智正



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       は東京拘置所の一人部屋にいます。

       一人でいる理由は、私が死刑囚だからです。

       天井でカメラが二十四時間監視している部屋です。


       はずっと一人部屋にいるのですが、その間に東京拘置所では何年もかけた建て替えがありました。


 
       (1996年から2003年まで)私が収容されていた建物は上空から見ると、

       熊手の先もしくは歯のない櫛のような形状をしていたはずです。・・・

                                 中川智正 私をとりまく世界について 『ジャム・セッション』




                   立春12



                                              立春13

                                                    旧東京拘置所                          


                       
                                 立春02






       にある四つの棟に収容者が入っていました。

          取り調べ室のある棟から北に向かって順に

             新四舎、新三舎、新二舎、新一舎と呼ばれていました。

                これらの収容棟は石とコンクリートと木で出来ていて、「新」と付いてはいましたが、

                   かなり古いものでした。




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            は新二舎の一階にいました。

       そこには、一人部屋ばかり50室ほどが東西にずらりと並んでいました。



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                     からは中庭が見えました。そこには沢山の樹木が植えられていて、が咲きました。

                                   


                    立春9



        が見てもすぐわかるカラススズメ以外の鳥も何種類か来ていました。

                                                   

                                           
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                「ホーホケキョ」と鳴く声がするので、

                   私はウグイスが来ているのかと思っていました。

                      しかし、それは一人部屋に入っている収容者の口笛でした。




                 立春01






        もよく部屋の中にいました。

        せいぜい1センチくらいの大きさで、獲物が来るのを待って、来たら飛びかかり、

        それを糸でぐるぐる巻きにする種類のものです。

        冬には獲物がなくて、待ったままの姿勢で干からびて死んでいくものが沢山いました。


                            中川智正 私をとりまく世界について 『ジャム・セッション』




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               すきま陽を求めて曲がる切り花よ

                 消えて光る素粒子のごとくあればよし

                   永き夜は深海となり鼓動聞く


                                                 中川智正 『ジャム・セッション』





                      福寿草




                                                 

            中川智正氏は死刑囚。

            オウム真理教の一連の事件に連座、死刑が確定しています。
   
            『ジャム・セッション』は俳人江里昭彦氏と中川氏

            さらにゲスト俳人の作品、文章をコラボさせた同人誌。

            2012年創刊以来4号が発行されました。


            江里氏は京都府職員として府立医大に勤務していた1980年代、

            同大学生であった中川氏と知り合っています。

                                                    カロ



                          
                  立春11





        その、中川智正氏は医学生としてしょっちゅう学生課に出入りしていた。
 
        この年、彼は「学園の顔」であった。

        というのも、大学祭の実行委員長の重責を担っていたからである。

        その他大勢の一員だった彼が、私の印象に強く残る存在となったのは、この年である。

        まえまえから障害者のボランティア活動をしていた中川氏が、

        会期中、車椅子を押しながら、構内を巡っているのを目撃した職員もいる。


               江里昭彦 1986年について 『ジャム・セッション』創刊号 あとがき


            
              
                    立春7






               手元に「プレフェスティバル」というビラが残っている。

               十月二十五日、京都教育文化センターでもたれた催しだ。

               プログラムの冒頭に「委員長中川智正口琴独奏」とある。口琴はだろう。

               催しを見にゆかなかった私は中川氏の独奏を聴いていない。

               今日に至るまで、をあやつる彼の姿を見たことがない。


                                江里昭彦 1986年について 『ジャム・セッション』




                    プレーンオムレツ


  



           「読み」がどこまでも自由であると同じように、「書く」こと、そしてあらゆる表現も限りなく自由です。

           生まれたばかりの赤ん坊でも、老人でも、つきでも、人非人でも、犯罪者でも。

           わたしはそう思います。 カロ



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カロ歳時記

  saison de karo89



                ふぐ鍋や壁に大きなジョン・レノン 黒田杏子




    John_Lennon.jpg




Imagine there's no Heaven    想像してごらん 天国なんてないって
It's easy if you try         かんたんなことさ
No Hell below us          足の下に地獄なんてないし
Above us only sky          僕らの上には ただがあるだけ
Imagine all the people        想像してごらん

Living for today...         みんなを生きているって...

                                                  ジョン・レノン 『イマジン』






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                        まずふぐ刺し・・・・

 


Imagine there's no countries    想像してごらん なんてないって
It isn't hard to do         そんなに難しいことじゃない
Nothing to kill or die for     国や宗教のために
And no religion too          殺したり死んだりしちゃいけないんだって        
Imagine all the people        想像してごらん

Living life in peace        平和に生きることができるって    


 

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You may say I'm a dreamer     そんなのだって?
But I'm not the only one      でも ぼくだけじゃないはずさ
I hope someday you'll join us    きみにも いつかそう思ってほしいな

And the world will be as one   中に そう思ってほしいな 



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                  次に本命 鍋にはお豆腐、ねぎ マロニーがアクセント





Imagine no possessions       想像してごらん 何も欲張ることはないって
I wonder if you can          悪意や飢えのない 
No need for greed or hunger     みんなの世界を作れるって
A brotherhood of man      

Imagine all the people        想像してごらん
Sharing all the world              世界はみんなのものだって





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You may say I'm a dreamer      だって?
But I'm not the only one       でも ぼくだけじゃないんだよ
I hope someday you'll join us    いつか みんながひとつになれるって

And the world will live as one    ぼくはってる



                                            『イマジン』



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                          シメは卵雑炊 お腹いっぱい・・・







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                                        Imagine


カロ歳時記

  saison de karo88


             
                  剥製のつばさ広ごる冬銀河  松下カロ



                        スワン
 


     わたしは煙草にをつけると、黙っているのが気詰まりになってきた。

     「白鳥の剥製みた?」

     と、わたしは早口にしゃべりだした。

     「たぶん生きている白鳥よりも死んだ白鳥のほうが美しいのだと思うわ。

      魂がないということだけでも素敵でしょ。描きなさいよ。ね、剥製をモデルにして。

      白鳥の死ってタイトルはどこかにあったかしら。

      白鳥の湖はチャイコフスキー、白鳥の歌はシューベルト。
  
      パヴロワは瀕死の白鳥・・・」

     気障な言葉を、しかもとりとめもなく喋っているのをわたしは感じた。



                                        原田康子 『挽歌』





             白鳥5





       「わたしをモデルにして、

        死んだ白鳥と、白鳥の死骸をよろこんで抱いている不遜の娘との取り合わせ・・・っていうのはいいでしょ。

        いい思いつきよ。」



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           「わたし一度ね、おじさんをみかけたことあるわ。 ジープに乗ってたのみたの。」

           「昔、トラックを運転してた。」

           「トラック?」

           「そうだよ。工兵隊って知ってるかい?隊の運転手が死んだあとに僕が運転した。」

           「戦争に行ったの?」





             アンコールワット3






                  「ぼくらの年では戦争に行かないやつのほうが少ないだろう。」

                  わたしはなにか愕いて、コップに唇をつけたまま彼をみつめた。

                  「どこに行ったの?」

                  「仏印マレエビルマ・・・」

                  桂木さんは笑いながらゆっくり言った。

                  わたしは、ふと、街が爆破されたの、の色を思い出した。

                  深紅、としか言いようのないの色。




                白鳥9





     死へのおびえと、そしてこの世の終末のような凄まじい美しさを滲ませていたの色を、

     あのような夜空を、いまわたしの眼の前にいる男は毎日みていたのだろうか。

     「かったでしょ。」

     「しいこともあったよ。」

     桂木さんはおかしそうにわたしをみた。






            アンコールワット1





   「どんな。」

   「そうだな。一番いい思い出はカンボジャにいたとき、こっそりアンコールワットをみにいったことだ。」

   「それ、なに。」

   「むかし、クメールという国があってね、そこの王様が建てた伽藍だ。古い東洋建築の代表的な建物さ。

                   日本人でアンコールワットをみたものはそういない筈だよ。」





        アンコールワット2



        「ぼくはマラリヤにやられたことがある。

         部隊はどんどん撤退中だったから、ひとりニッパハウスという掘立小屋に取り残されてしまった。

         ぼくのいる渓間に、土民の狙撃兵の撃つ銃の音が聞こえた。

         ぼくはとにかくぬな、と自分を戒め、

         争が終わったら、アパートや小さな住宅をたくさん建てねばならないと考えたりした。

         ぼくが場に置かれていることのむなしさをはっきりと感じたのはその時だった。」





         白鳥2




      それは西の方へ行く電車だった。

      わたしは車窓に流れてゆく平坦な街の家々の明りに旅情をおぼえながら、

      彼がわたしとの結婚を望んでいたことを、ぼんやり考えていた。

      わたしには、彼がわたしとの結婚を考えたのは、

      わたしがったとおり、恋からではなく、わたしへの思いやりからに違いないように思われた。

      むろん、これを機会に夫人との生活をりにしたい、という気持ちもあるだろう。

      どんな男だって、愛人のいるよりも、

      男を愛しているのほうを選ぶかも知れない。

      たとえ妻に断ちがたいものがあり、娘をはげしく恋していなくとも。


                                                       『挽歌』



            
              白鳥4




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              カロちゃんどしたの? 自分の句なんかだしちゃってニャ 


                        たまにはいいじゃない。 カロ 


       
                               
カロ歳時記

  saison de karo87



                ユダよりもさびしき一人クリスマス 行方克巳


   クリスマスケーキ10

                                   
                                                                                                           

        を食べなくなって、もう何年になるだろう。




                        クリスマスケーキ3



        私はさなを抱えて、渋谷駅から井の頭線に乗っていた。

        当時、私は日本橋の出版社に勤めていた。

        会社はれかけていたし、一身上にもの晴れないことがあった。

        家の中にもさなごたごたがあり、

        夜道を帰ると我が家の門だけが暗く、くすんで見えた。

        私は玄関の前で呼吸をととのえ、きな声で、

        「只今!」と威勢よく格子戸を開けたりしていた。




                                                 向田邦子 『父の詫び状』




                   クリスマスケーキ9




              それにしても、私のケーキさかった。

              夜十時をまわった車内はけっこう混み合っており、ケーキの包みを持った人も多かったが、


              私のは一番さいように思えた。



        父はなどに気の廻るタチではなく、

        いつの間にか、それは長女である私の役目になっていた。




                     クリスマスケーキ1




               甘党の母や弟妹達の頭数を考えると、やはりさすぎた。

               せめてもの慰めは、銀座の一流の店の包みだということである。

               来年はもっときいのにしよう、と思いながら、私は眠ってしまった。





                     クリスマス6



               そのころ、私は乗り物に乗ると、必ずをしていた。

               内職でラジオの台本を書き始めていたので寝不足だった。


               終点に近いせいか、車中はガランとして、

               2、3人の酔っ払いが寝込んでいるだけだった。





                      クリスマスケーキ6




        私は、我がを疑った。


             私の席の前の網棚の上に、きなの箱が乗っていた




                      クリスマスケーキ7





             私の膝の箱の倍はある。しかも、同じ店の包み紙なのである。            

             下の座席には誰もいない。明らかに置き忘れである。


                                      クリスマスオーナメント


             こんなことがあるのだろうか。

             誰も見ていない。

             取り替えようと思った。        
        
             だが、それは一瞬のことで、


        



                      クリスマスケーキ8



                      
               電車はホームに滑り込み、私は自分の小さなを持ってホームに降りた。


               発車の笛が鳴って、
        

               きなを乗せた黒い電車は、四角い光の箱になって、

               カーブを描いて三鷹台の方へ遠ざかってゆく。

  
               サンタクロースだか、キリスト様だか知らないが、 

               神様も味なことをなさる。





                      クリスマスケーキ2





        仕事も、恋も、家庭も、どれをとっても八方ふさがりのオールドミスの、
        
        さなを憐れんで、ちょっとした余興をしてみせてくださったのかも知れない。


        私は、笑いながら、「リーと言ってみた

        不意が溢れた。

                                     『父の詫び状』




                       クリスマスケーキ5

        

                
 
 カロ歳時記

        saison de karo 86 



                     平手打ちかすかに雪の匂いして 岸本マチ子



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              年末のを受取って加奈江が社から帰ろうとしたときであった。

              気分の弾んだ男の社員たちがいつもより騒々しく

              ビルディングの四階にある社から駆け下りて行った後、

              加奈江は同僚二人と服を着かえて廊下に出た。






                        叱られ2





              すると廊下に男の社員が一人だけ残ってぶらぶらしているのが、妙に不審に思えた。

              しかも、加奈江が二、三歩階段に近づいたとき、その社員は、

              加奈江の前に駆けて来て、いきなり彼女の左の平手打ちを食わした。


              あっ! 
 
              加奈江は仰反ったまま右へよろめいた。

              瞬間、男は外套の裾を女達の前に翻して階段を駆け降りていった。

   
              加奈江を打った男、、堂島は翌日付けで退社していた・・・・・。




                                              岡本かの子  『越年』


                     越年2




              資生堂の横丁と交叉する辻角に来たとき、

              五人の酔った一群が肩を一列に組んで近くのカフェから出て来た。


              「ちょいと、堂島じゃない、あの右から二番目。」

              同僚の明子がかすれた声で加奈江の腕をつかんで注意したとき、

              加奈江は既に獲物に迫る意気込みで、

              明子をそのまま引きずって、男たちの後を追いかけた。





                     叱られ4



              「堂島さん!ちょっと話があります。待ってください。」

              加奈江はすかさず堂島の外套の背を握りしめて後へ引いた。




                                                       ひらてうち




             「なぜ、撲ったんですか。

               それも社を辞める時をよって撲るなんて、卑怯じゃありませんか。」


             堂島は不思議と神妙に立っているきりだった。

             「あんまりじゃありませんか。あんまりじゃありませんか。」

             加奈江はついに男のを叩いた。




                                           雜雁ケエ・狙convert_20131013230034

                



             会社に加奈江宛の手紙が来ていた。


 
            「今度の会社が有望である点が僕の去就を決しました。
  
             しかし、社を辞めるとなれば、あなたに会えなくなる・・・。


             思い切って打ち明けたところで、断られたらどういうことになる?

             あなたは僕のことなど忘れてしまうだけだ。

             いっそ喧嘩でもしたらどうか。

             あるいはむことによって、僕を長くれないかもしれない。

             そんな自分勝手な考えしか切羽詰まってくると浮かびませんでした。

             僕は、夢中になって、あの日、あなたを殴ったのでした。」





                 越年3


     
             


          ・・・・加奈江は呟いた。

            
                     そんなにも迫った男の感情ってあるものかしら・・・・。


                 
                                                    『越年』




            越年4




                      カロちゃんも最近なんかあったんじゃニャ?


      
                                       。     カロ   





                            ひらてうち2