saison de karo 10

翅わつててんたう虫の飛びいづる 高野素十


さかさまてんとう虫


「あなたのお誕生日のとき、たしか17回目のお誕生日でしたね、贈物に指貫をさし上げませんでしたか?」
「いただきましたわ。いまでも持っていますの。」
「したのほうに金の蛇がついていて、うえには針を押すためのてんとう虫の形をした縁玉がついているやつですよ。」
「ええ、そうですわ。」
「お使いになったことありますか。」
「いいえ、あたしめったに縫物しないもんですから。」・・・・・


てんとう虫ジュエリー



・・・・・「いいですか。」男はやさしく言った。
「あなたはぼくのものだ。暗闇のなかではぼくのものなのだ。・・・永遠にそうなんだ。あなたとお別れしなければならないときが来ようと、そんなことは問題じゃない。忘れないでくださいよ。あなたは生きているかぎり、そしてまたたとえ死んでしまったあとでもてんとう虫の夜の妻なんだ。」

                  ロレンス 『てんとう虫』
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saison de karo 9

花びらの落ちつつほかの薔薇くだく 篠原梵


薔薇と王子さま


「こんにちは。」王子さまは言いました。
そこは、薔薇の花がいっぱい咲いている庭でした。
「こんにちは。」薔薇たちは答えました。
王子さまは薔薇をみました。花は、どれもそっくりでした。
「君たちは誰なの。」王子さまは、あっけにとられて聞きました。
「私たちは薔薇よ。」薔薇たちは答えました。
「ああ・・。」王子さまは驚きました。
とてもさみしくなってしまったのです。彼の薔薇は、自分は世界でたったひとつの素晴らしい花だと言っていたのに・・・。
ここには、ひとつの庭になんと500も同じ花が咲いています。・・・・・・

つるばら

「僕がこの世でひとつと思っていた薔薇は、ありきたりのどこにでもある薔薇だったんだ。僕がただのちっぽけな王子なのと一緒だ・・。」
王子さまは、草に倒れて泣きました。
              サン・テグジュベリ 「星の王子さま」(ベタな訳カロ)



泣く王子さま







saison de karo 8

傷口にひかり集める花の雨 五島高資

花散らし
saison de karo 

白い雲をパンの神とし麦野ゆく 多田裕計

シャガール


そして、丁度その時であった。何の気もなしに頭へ手をやって、始めて触れたのがその角(つの)だった。まさかとは思ったのだが、たしかに瘤などではない、異様に尖ったふたつの隆起が、額のすぐ上に感じられた。同時に全身、とりわけ下半身のほうに音を立てるほどの勢いで、体毛の伸び出すのが判った。春の街なかで、何かとんでもない変身が起こりかけているらしい。髪も髭も、前から長く伸ばしているんだし、人眼に立つとは思えないけれど、タカシはあわてて行きずりのメンズウエアの店の前で立ち止まると、仄暗いウインドをのぞきこんだ。

・・・変身はどうやら完了したらしい。サチュロスというのか、それともフォーヌとかパンとか呼ばれる、山羊の蹄と角とを持った、あの毛むくじゃらな牧神に自分がなってしまったことを、まだ誰も気づいていないんだと思うと、ちょっぴり嬉しいような、それでいてひどくみじめなような、妙な気分だった。
・・・決闘・金狼・愛餐・幻日・袋小路・紫水晶・歪景鏡・贋法王・挽歌集・首天使・三角帆・宝石箱・帰休兵・火食鳥・花火師・水蛇類・送風塔・冷水瓶・聖木曜日・・・囚人名簿・二人椅子・耳付きの壺・放浪楽人・とらんぷ屋・埃及の舞姫・土耳古スリッパ・露西亜の四輪馬車・・・。
さっきから耳のなかで唸りをあげているのは、およそ脈絡もない言葉の羅列で、それがふらんす語やらロシア語やらのきれぎれな発音をともなって、次から次へと風のように掠めては去るのに、タカシはすっかり閉口していた。

・・・「目をつぶってろよ。いいか、よしって言うまで、あけちゃダメだぞ。」
コートを脱ぎ棄て、シャツを毟り取り、タカシは水浴びをする前のような手早さで、着ているものすべてをそこへ払い落した。靴下をとって、二つに割れた蹄を見たときは、ちょっと悲しい気がしたが、それよりも、この青空の下で、生まれながらの本当の姿に還れた喜びのほうが大きかった。

・・・「あたいも裸になっちゃおうかな。」「そうしろよ。ニンフはみんな裸だぜ。」
こういうわけで、T・・自然動物園には、新しく牧神とニンフの放し飼いになっている場所がある・・・・
       
                            中井英夫  『牧神の春』
saison de karo 6

さまざまのこと思ひだすさくらかな   松尾芭蕉

さくらしべ


満開の桜の木の下に立ってじっと見上げていると、ぼくはいつも、なぜか、
「オレ、わるかった ! 」という思いに駆られてしまう。
花の清々しさに心を洗われるからだろうか。
「心を入れかえて、これからは真人間になります。」
桜の花は、ゆるぎもせずに、ただしんと静かに咲いているだけである。

東海林さだお 『ショージ君の料理大好き』 「行楽弁当の巻」

人間は、前非を悔いると急に腹が減るものなのだろうか・・・。(同書)


ショージくん  

お弁当