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    歳時記
         saison de karo

         鰯雲人をすに時かけて 九牛なみ

        東京鰯雲

       死の数日前、ネルリは言った。

          形見にこれを残してゆくわ。十字架とお守りよ。・・・・・

            母さんが死ぬ前に書いた手紙も入っている。あのひとへの手紙よ。

     手紙をもって、あのひとのところへ行きなさいって、母さんは言ってた。私は行かなかった。

        あのひとのところへ行って、私は死んだけれど、あのひとを赦さなかったって、言ってほしいの。

        私がこのあいだ聖書を読んだことも言ってね。聖書には、

   汝の敵を赦せって書いてあった。それを読んだけど、私はあのひとを赦さないのよ。

                                            『孤児ネルリ』

鰯雲3

     ネルリは某公爵の娘だが、母と共に捨てられる。母娘は困苦を舐め、母は死に、ネルリは売られる。

      ふとしたことから、代書屋の青年、医師等善意の人々に助けられるが、

       父親に会うことを拒んだまま、病み、死んでゆく。
                           
                                  ドストエフスキー『虐げられた人々』

     鰯雲1

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     saison de karo 59

              赤糸の殊にもつれて彼岸入り 時実新子


           赤い糸6


          赤い糸4






GONSHAN GONSHAN 何本か 
地には七本 血のやうに 血のやうに


GONSHAN GONSHAN 気をつけな
ひとつ摘んでも 日は真昼 日は真昼

ひとつあとからまたひらく


                                  北原白秋  『彼岸花』



赤い糸8


赤い糸3



  歳時記
        saison de karo 

               掌をとおもふ秋蛍  清水径子

        ほたる2

    物思へば澤の蛍も我がよりあくがれ出づる玉かとぞみる  和泉式部

          男に忘れられて待りける頃、貴ぶねにまゐりて

                     みたらし川にほたるのとび待りけるを見て読める

    ほたる3

      こんやはかわべのまつりです
            ひかってひかっておどります
                こころがどきどきするたびに
                    ひかってひかっておどります     工藤直子 『川辺のうた』

       ほたる1

         ほたるこい 山道こい

                   行燈ともしてこい

                             ほたるこい ほたるこい

           ほたる4

    歳時記
      saison de karo  

                   のように少女は老いて飛騨の夏 津沢マサ子 

                飛騨の夏3
                     飛騨鉄道

  少年易老学難成  一寸光陰不可軽 未覚池塘春草夢 階前梧葉已秋声

   少年老い易く学なり難し  一寸の光陰軽んずべからず  未だ覚めず池塘春草の夢  階前の梧葉已に秋声
                                         
              飛騨の夏5

                飛騨の夏2
                               飛騨 鎌倉街道

                     飛騨の夏8

           飛騨の夏1
                     飛騨 京都大学天文台
                                            kuroba1 (2)

    歳時記
       saison de karo 

                      蚊帳あたらし蒼茫として来る 畑耕一

                 蚊帳1

      貧しい娘が貧しい家のニ階を借りて住んでいた。  恋人との結婚を待っていた。

      しかし、毎日ちがった男が娘のところへ通って着た。  夜、男たちは誰もかれもきまって言った。

      「何だ、蚊帳もないのか。」

      「すみませんわね。わたしが、夜通し起きていて蚊を追って差し上げますから、ごめんなさいね。」

      娘はおどおどして青い蚊取線香に火をつけた。

      珍しく老人が貧しいニ階へあがって来た。

      「蚊帳を吊らないのか。」

      「すみませんわね。わたしが、夜通し起きていて蚊を追って差し上げますから、ごめんなさいね。」

      「そうか。ちょっと待っていてくれ。」

              蚊帳6

        老人は梯子段を下りて行ってしまった。 娘は蚊取線香を焚いた。

        老人が戻って来た。娘は飛び起きた。

        「ほう、感心に吊り手だけはあるんだな。」

        老人は真新しい蚊帳を貧しい部屋に吊ってやった。

        娘はその中へ入って裾を広げて歩きながら、さわやかな肌触りに胸をおどらせた。

        「きっと、戻って来てくださると思って、電灯を消さずにお待ちしていましたわ。」

        娘は幾月ぶりかの深い眠りに落ちた。朝、老人が帰るのも知らなかった。

       蚊帳3

        「おい、おい、おい、おい。」  恋人の声で目が覚めた。

       「いよいよ明日結婚できるぞ。・・・・うん、いい蚊帳だ。見ただけでもせいせいする。」

       言うなり彼は蚊帳の吊り手を皆外してしまった。

       そして、娘を蚊帳から引っ張りだして、蚊帳の上へほうり投げた。

        「この蚊帳の上へのっかれ。大きい蓮華みたいだ。これでこの部屋もお前のように清らかだ。」

       蚊帳5

         娘は新しい麻の肌触りから、白い花嫁を感じた。

            「わたし足の爪を切るわ。」

        部屋いっぱいの蚊帳の上に座って、彼女は忘れていた足の長い爪を無心に切りはじめた。

                                    川端康成 『朝の爪』

                蚊帳2